17 栗拾い

 むかし、じじとばばいだっけど。
 栗が実(な)った節の秋、栗拾いに行くていうわけで、朝飯炊いて、弁当つめるてい うわけで、家の人、わらわらして呉っじゃ。油揚げ飯炊いっだけずだな。そいつ つめて、カッコ背負って、中津川の境まで行って拾い方しったそうだ。
 ところが昼飯ごろになった。向うの方から若い女が来たどな。と、ばば、
「ここらに栗は落ちてねが、もし」
 て聞いた。したらば、「しぇー」とか言ったきり、何も言(や)ね。
「はて、異なこと言う若い娘だな」
 て、しばらく経(た)ったら、向い山からコンコン、キンキンなて鳴く音する。
「はぁ、狐の畜生だな、バガにしてるな」
 なて、それからそこさカッコ置いて、栗一生懸命拾った。昼飯食うべと思って、 カッコ、ちょぇっと置いたカッコが、どこさ行ったか無いぐなった。こいつぁ探(た)ね ねでいらんねもんだから、一生懸命探ねっだら、ワラジだの何だの、みな切れて しまった。足は血だら真赤になって探ねだげんども、一つもわかんね。
「いや、こんどは家さ帰る道も分かんねぐなった。こりゃ困ったもんだ」
 それから、ばば考えて水の流れる方さ、さがれば人家があるということは、お れ聞いでる。仕方あんまいと思って、沢さ降ちて、沢水の下る方さ、何とも仕様 なくて、沢さ入って沢水の流れる方さかまわず下ってきたどな。して来たところ が、沢さ人の影ひらっと写った。したら、ばば、
「誰か人であんめぇかな」
 て言うど、
「ああ、おれ人だ。なんだ、まず」
「いや、おれ、山さ栗拾いに行ったげんど、とても分らね。飯も食(か)ねでこの通り で、家さ行がんねぐなって、水の流れ下って来たどこだ」
「そりゃひどがったな、まず上がれ」
 て言(や)っで、川からダラダラした身成りして上がって、そして助けらっで送って もらったどな。
 それから、ばば、家まで送ってもらったどな。
「ほじゃがら、山さなど行くとき、油揚げ飯など持って行かんねもんだ」
 て言わっだ。
 油揚げ飯で、七里四方の狐は集まるもんだど。次の日、カッコ探しに行ったら、 ちょこんとあったど。とーびんとん。
(遠藤昇)
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