16 カセドリの狐

 正月、コバダイしたとき、夜中に便所さ行ったところが、狐が便所のとこさ昼 眠してきづがったど。そして昼眠しったな、ちょいっと見つけたもんだから、ボッ カイ持(たが)って、狐を思い切ってぶっ叩いたていうわけよ。
 ところが狐はまず一間も踏ね上がって逃げて行ったていうわけよ。そしてその 年の正月、やっぱり、カセドリというの、うんと好きな人だったそうだ。近所の 若衆五六人にさそわっじゃわけよ。そいつ家の人、さっぱり知しゃね。
「カセドリ、今日始めて来たところだから、出てあえべ」
 じじは好きなもんだから、そいつさ混ざって出たていうわけよ。そして綿入れ を着ていだらええがったものを、褌一つでそいつさ混って出たていうわけよ。そ して出たところが、次の日、家の人、
「じじはいない」
 ということで来たわけだ。そしたら素足の足跡一つと、後はみな狐の足跡。そ してずっと村中の騒ぎになって、尋ねて来たところが萩の下まで来て、カセドリ して、これから餅焙っていたところだがらって、自分はお湯さ入っていた。狐は 決して人を殺さねが、裸にして連(せ)て行って、川さ入らせたもんだど。
(嵐田勝見)
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