7 なじなむかしむかしあったけど。あるところに、むじないだっけど。高安の沢さ、毎日のように殿さま行列あっ て、そこらの人ぁ毎日土下座していんなねし、御馳走でもしねげば、これもおん つぁっだり、殺さっだりするから、何ともいたし方なくて、それからそこの人ぁ、 お庄屋なんていう人いて、 「いや、とてもわかんね、毎日殿さま来る。ただで置かんねし、御馳走さんなね し」 そういうわけで、だんだん考えたど。 「あっけな、殿さまでない。何か化けるんだ。ここらにぁ、むじなざぁいた。そ れにちがいない」 そしてこんど、 「むじな、それなど退治するにゃ、何として呉(く)っじゃらええがんべ」 こんど考えた上、 「犬に殺させるしかない」 て、みんなで評判したんだな。ところで犬なんざぁ居ね。はて何として、と、 殿さまに願って、土佐から土佐犬もって来てもらうように話したんだな。土佐か ら太郎坊と次郎坊という男犬と女犬借りて来たど。太郎坊ていうのは男犬で、次 郎坊ていうのは女犬だ。その二匹の犬を連(せ)てきて、そうすっどまた行列、トント ンとやって来る。 それから、高安では立派な倉さ案内して御馳走して、そこさ酒肴を出して、み んなお膳ならべて来て、逃げてきた。それから酒盛り始まったのを見て、犬を口 から入っでやってから、バェンと錠かったど。ほうしたところぁ、その音という のは外まで聞えて来たという。静かになったんで錠あけて見たところぁ、むじな と犬ぁ死んでしまったけど。男犬ぁ殺さっだ。そして金網ぶん抜いて、むじなの 大将逃げてしまったど。 それから村人は心配して、その犬は立派に葬って、そこさ石塔立ててやったん だな。ところがだんだん後に、むじなの孔、むじなの平など見つけて、犬は一匹 死んでしまったし、女犬がその後、子が出てふえて今に伝わるんだど。 男犬の宮が今もある。その犬は水かきがあったもんだど。 |
(遠藤昇) |
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