18 小僧持念―貸し便所―

 むかしむかし、楢下(ならげ)の宿さ、福聚寺ていうお寺さまあって、ほこさ持念さんていう、とても賢こい小僧さんがいだった。ところがほの小僧さんも、だんだぇ大きくなって、嫁さんもらって、夫婦暮ししった。ほんで人さいろいろ親切して、何してるもんだから、なかなかお金にめぐまんねがった。
 んで、あるとき、一策をめぐらした。いわゆるこの八月のお祭りのどき、貸し便所建てることを考えた。た。ほして、(くい)()と細木とムシロと背負って、パッカリパッカリ上山さ()っで行った。ほしてお八幡さまの、八月のお祭りんどき、境内の脇さ、便所の小屋掛けした。ほして、〈貸し便所〉と大きく書いて立でっだ。
 ところが、はいつ見っだ町の人が、ほだな杭木や細木でなく、角もので板張りの便所建てはじめた。ほうしたところが、持念さんの方さ、誰一人来ねで、ほの立派な貸し便所の方さばっかり行ってしまう。ほうしたけぁ、何考えっだか、ほの持念さんが、三文の銭(たが)ったけぁ、すっと居ねぐなった。居ねぐなったけぁ、間もなく川の流れ変ったみたいに、持念さんの方の便所さ、のとのと、のとのと人来た。ほしてほの奥さんが、
「何だべ、こだえいそがしくて銭とてりすんなねとき、なして、おら家のとうちゃんが、どこさ行ったべ。どさ行ったもんだか、まず、はぁ。お祭り見行ったもんだが、来ねっだ、こりゃ。おればっかりいそがしいごど、いそがしいごど」
 なて、つぶやきながら、銭とりしった。ほうしたけぁ、夕方なったれば、パッカパッカ来た。
「なんだべ、とうちゃんたら、おればり急がしくて、ししゃます(大変だ)した。どさ行って来たごど」
 ていうたらば、
「いままで臭いとこえ頑張って来た」
 ていうたけど。ということは、持念さんが新しい便所さ入って、出て来ねがったんだど。
 んだから、他人(ひと)入んべと思って行ぐど、人いるもんだから、なんとも仕様なくて、ええ便所さ行がんねくて、持念さんが向うさ入っているもんだから、こっちの方さ、流れ変ったように、どんどん入ったなだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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