8 鬼人のお松

 むかしあったけど。
 山の中ほどに、「石の洞」といわれるところがあって、大きな一枚岩が地面から斜めに突き出はって、天然の洞窟となっていっどこがあった。むかし、ほの石の洞を住みかに、恋に破れた、ほして世の男性をのろって、若くして美しい、とても魅力のある女がいて、旅人が来っど、
「どうか向う岸さ渡してけらっしゃい。おれば(うぷ)って渡してけらっしゃい」
 ちょえっと、ほの旅人が顔見っど、笑い顔なの、とても、ぞっとするほどきれいな娘だった。二つ返事で、ほしてほいつば()ってその川を越すべと思うど、渓流の中ほどまで行くと、懐からアイクチを出して、旅人の肩から心の臓にいたるまで、一気に突刺して、ほして懐中のものを奪った。人々は、かいつば、恐れて、鬼人のお松と呼んでいだっけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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