3 七夕さま(1)

 むかしむかし、七夕さまていうことについて、こんな話ある。
 牛飼い居だった。ほの牛飼いが非常に牛ばめんごがって手入れした。よく扱った。ところがほの牛が、あるとき口立った。
「旦那さま、旦那さま、いつの何日(いっか)、天から七人の織姫が水浴びにくる。川原さし水浴びに来っから、ほのうちの一番若い織姫さまが、これは機織りも一番上手だし、器量も一番ええ。その人が丁度、あそこの一本松の枯枝さ羽衣をかけて水泳ぎすっから、ほん時、その羽衣を持ってござっしゃい」
 て教えた。果せるかな、その日になったら、天からすいすい、すいすいと七人の天女が降りてきて、水浴びはじめた。それはすばらしい放香すると思ったら、それは肌合いの匂いだった。ほしてほこさ牛飼いの人が出て行ったらば、人間の気配に気付いて、ほして六人の織姫が、すいすい、すいすい、天さ羽衣着て登って行ってしまった。
 ところがほんどき、牛に教えらっでだ一番若い、松の木の枝さ羽衣かけたのを牛飼いは持って来てしまった。で、何とも飛んで天さ行かんねもんだから、追っかけで来たわけだ。ほして二人は夫婦になって、子ども二人生まっでしまった。ところが何日経っても、一番末っ子の七夕さまが帰って来ない。お母さんの天帝さまていう人が、家来に命じて探させた。ところが水浴びに行って、世俗の人と一緒になった。それを烈火のごとく怒った天帝さまは、
「すぐさま、連れて来い」
 て、家来さ命じて、連れに寄こした。そして、いやおうなしに、子ども二人いでから無理矢理天さ連れて行がった。
 ところが、牛飼いが、
「いや、子ども二人もいてから、天さつれて行がっだなて、とんでもない。困ったこと始まったもんだ」
 て、そうしていたところが、牛がまた口立った。
「旦那さま、旦那さま、おれも今までいろいろ扱わっで来たげんども、寄る年波でもう余命いくばくだ。おれが死んだら、おれの毛皮を着て、天に飛んで行きなさい。そうすると、奥さんの七夕さまさ会われっから」
 て、ほういうわけで教えだ。ほうしたら、まもなくその牛がころっと逝くなった。
「許せよ」
 ていうわけで、ほの皮剥いで、ほして牛の皮ちょっと着てみたら、ふわふわて浮く。
「いや、こりゃ大したもんだ」
 そして、天(びん)にして、前にはお兄さん、うしろには妹をかついで、ほして天に行くべと思ったら、バランスがとんね。兄さんの方が重たいもんだから下がる。
「ははあ、それでは」
 というわけで、傍にあった手桶と柄杓とを妹の方に結付けて、そして平均とってふわりふわりと天さ浮いで行ったわけだ。そしたら、天と地の境に「天の川」という川があった。天は飛ぶことが出来っけんども、川の上、牛皮と川が差し合いだというわけで、川は何としても越せぬ。
「ほんでは仕方ない。ここ、まず川渡って行かんなね」
 ていうわけで、牛の皮をぬいで、二人の子どもをつれて川渡っど思ったれば、
「小癪な、下郎め」
 というわけで、天帝さま、ごしゃえっだけぁ、銀のカンザシを頭からいきなり抜いて、天の川さ一線を画したわけだ。ところが今まで漣波一つ立たねがったその天の川、急にむっくりむっくりと水が()えて大増水、大濁流になってしまった。
「んだげんども、ここまで来て、会わねでもどるわけ行かねし、よし、仕方ない」
 ていうわけで、その親子三人して、柄杓とその手桶で水をかきはじめたど。必死になって。命もつきよとばかりかいたれば、考えてみたれば、天帝さまが、
「子どもには罪はない。子どもは自分の孫にあたる」
 て、やむをえず、かささぎをいっぱい呼んで、かささぎで橋をかけて、そのかささぎの橋の上で七夕さまと牛飼いが年一回ずつ、そこで会うことを許さっだ。それが七月七日の牛飼いと織姫さまとが年に一回お会いになる日なんだど。どんぴんからりん、すっからりん。
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