9 かちかち山じさま、刈野(かの)の豆蒔きに行ってで、「一粒、千粒になれ」 そこさ、むじな出てきて、石さ腰かけて、 「一粒、一粒できっかれ」 て、こう言うたど。そうすっどじさま鍬で「この畜生」て叩く気になったど。そうすっど逃げられ、翌日、モッチ持って行って、石さ塗っておいた。そして叩いたんだど。そうすっどむじなは死んだふりしたど。じさ、家さ持ってきて、 「晩げ、むじな汁しておけよ」 て、また山さ行った。ばんさ、小屋で米搗きしてだら、むじなは、 「ばさ、ばさ、おれ搗いて呉れんべ」 て言うた。 「いやいや、じんつぁにおんつぁれっから、ええ」 「いや、またじんつぁ来る頃、おればまた下げるんだ」 て、こう言うた。そうすっど、ばさまが下ろして米搗いてもらった。 「ばさ、ばさ、搗けたかなんだか見ろ」 て言うた。そうして見るどこ頭搗かっで、そしてばさまの着物きて、ばさに化けでだど。そしてばさまの肉剥(は)いでむじな汁拵えてたと。 じさま帰ってきて、 「なんだか、このむじな、しないな」 て言うたど。そうすっど、 しないもしないも道理がさ むじな汁食って ばば汁食った 踊って逃げあがった。そうすっどじさまが不思議に思って縁の下見た。そうすっどばさまの死骸があったど。じさま悲しんでいたどこさ、兎来て、 「何して泣いっだ」 て聞くと、そうすっど、 「こういうわけで殺さっだ」 ていう。 「仇(かたき)とって呉れっから、泣くなよ」 て言うたど。 兎がむじなどさ行って、 「柴刈りに行かねか」 て誘い出した。そして柴とったな、むじなには燃えそうな背負わせた。途中まで来ると兎が、 「ああ、病(や)めてとても歩かんね」 て言うたど。むじなは、おれの柴の上さあがれて、柴の上さあげて呉(く)っだど。カチンて火打ち石で火をつけっど、 「何しった。火打ち石のような音すんな」 「あれはカチカチ山のカチカチ鳥よ」 て、兎は答えたど。そのうちにボンボンと燃えると、ピョンと跳び降りて逃げて行った。そして家さ戻っど、南蛮と味噌とねり合せて拵った薬、むじなの家の前を通って、 「火傷の薬はいらんかぁ」 て行った。 「ああ、切ない。ああ、切ない。早くつけて呉ろ」 て言うたど。そうすっど背中じゅう味噌つけて、ゴデゴデて塗って呉ったど。 「はぁ、痛い痛い、痛い痛い」 て苦しむとき、 「ばばの仇討ちだ」 て逃げだど。そして逃げて、 「いやいや、兎、兎、おまえ、この間はひどいことしたな。おれの背中さ火点(つ)けて逃げたではないか」 「それはカチカチ山のカチカチ兎だべ。おれは薬売りの兎だから知しゃね」 て、杉薮(やぶ)さ行ったって。そしてこんど舟を彫ってだって。そさ、今度ようやく背中治って、むじな、そこさ行ったど。 「兎どの、兎どの、お前はひどいことする。おれの火傷の背中さ南蛮味噌塗らっだ」 「それは薬売りの兎で、おれは杉薮の兎だから、おれでない」 「それ、何するもんだ」 「海の川さ持ってって、のっど面白いもんだ」 「おれに一つ造って呉んねえか」 「あまりええどこでない」 そして、自分のなは、杉舟。むじなには土舟造って呉っじゃど。そして二人で磯までもって行って川さ浮かべだど。そして、 杉舟、こんと行け て叩くと、兎の舟はすうっと行った。むじなは、 土舟、こんと行け て叩くど、ザクッと割れて、川さ落ちて死んだけど。むかしとーびん。 |
(川崎みさを) |
>>カマイタチ 目次へ |