8 長者ばなしむかしむかし、あるところにすばらしい長者がいてやったど。ところでこの長者はもっとも長者たかわり、家の中などは、とんでもなく立派に拵え、殿さまの御殿にもまさるような普請であったそうだ。ところがそこの家で今まで使っていた女中が、まず嫁に行くとか何とかで、女中が一人いねくなたていうのだな。何とかして代りのもの探ねっだいっていうことになって方々探したげんど、なかなか人は見当んねていうのだい。 ところが山の中から誰かが口入れして、娘ば連れて来たていうのだな。ほんで、 「この奴は人は正直で堅いからええでないか」 て言うので、 「ほんでは使ってみんべ、そんでええたれば置くし、悪ければ返す」 て、ほの女中をあずかったわけだ。ところが仲々な娘だはげて、朝起きはええ、というとんでもない、ここらうち、朝げは暗いうち起きて、お庭から何から掃き掃除する、拭き掃除する、家の中はする、とにかく働きもんだていうんだな。ほうしているうちに外廻りして家の中の拭き掃除する、そして雑布持(たが)って来て、みな拭いたていうんだな。 ところがその旦那目覚まして見たれば、床の間、雑布で拭いっだわけだ。そんで旦那ごしゃえで、 「この床の間ていうのはすばらしい床の間だから、雑布でなの拭くのでない。雑布なていうのは板の間とか流し前とか、こういうどこは拭くのであって、そういうとこを拭くのではない。物識らずもほどがある。そつけな者置かんない」 て、そうしてはぁ、暇出したわけだ。旦那、気に合わなくて置かんねていうなはげ、仕方ないごてはぁ、てその家から出はたていうわけだ。そこさひょっこりその旦那の歌よみの先生が来たていうのだ。そうして、 「実はこういうわけで、おらえに女中が一人いなぐなったについて、どこか遠かいところの山中から娘たのんで来て置いてみた。ところが事もあろうに、床の間板の間とか流し前拭く雑布で拭がっだ。こいつは気に食わない」 こういうたど。したれば歌よみが、 「なえだて旦那、ほだなことは教えね人ぁ悪れなだ、ここ拭くときはこいつ使え、流し前や何かえ拭くときには、こいつ使えというて教える。そいつ教えもしねで悪れというのはどうかしている」 雑布とは当て字にかけば蔵と金 あちらふくふく こちらふくふく したれば、なるほどそういえば福の神だ。ほだればまだ遠くは行くまいと、番頭ばつかって、さっそく呼び戻したど。そうしたればこんど、 「いらねて言わっだんだ。おれぁ帰らね」 「いやいや、旦那、詫すっから元通り来てもらいたい」 て言うて、無理むり引張って来たど。ところが早く見っどきには、ほだんでないと見ていたわけだからだけど。普通の女としか見なかったべ。戻って来たときに見たところが、なるほど福の神みたいだけど。そしてとうとう旦那は息子いたなさ、嫁もらったけのよ。そして仕合せになったど。 |
(横尾権次郎) |
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