3 地獄浄土

 庭掃除したところが、豆ころげておった。
「この豆、どこまで、溝の穴の穴まで」
 て言うて、ころころ転んで、穴の中さ入って行ったど。すっど、そのじいさんがその穴をのぞいたところが、にわかに大きくなってじじさ入られるような穴になったど。そこの穴くぐって行って見たところが、地蔵さんが立っておったど。ところが地蔵さんさお詣りしていところが、地蔵さんが口たって、
「じさま、じさま、膝さ上がれ」
「なんだて、地蔵さま、もったいなくて膝さなの上がらんね」
「ええから上がれ」
 こういう風に言われた。んだから、
「んだらごめんしてけらっしゃい」
 て言うわけで、膝さ上がって、
「いや、こんど、じさま肩さ上がれ」
「いや、膝ささえじっと、もったいなくて上がったんだから、とても肩さなの上がらんね」
「ええはげ、上がれ」
 て言われて、
「んだら、ごめんしてもらいたい」
 て、肩さ上がったって。したら、
「頭さ上がれ」
 て、こう言うた。
「とっても、足曲がっさげ上がらんね」
 こう言うて、じさまが言ったところが、
「足なの、曲がらね、じさま上がれ」
 て言われて、じさま上がって、こんど、「裏板さ上がれ」て。そうすっど、
「晩に、鬼だ博奕打ち来る。そして金どっさり背負って来(く)んのだから、ほんどき夜明けまで鬼だ博奕打ちやってくるのだから、そのときお前鶏の鳴き声しろ。そうすっど夜明けだと思って鬼だ逃げて行んから、ほんどきお前、金みな持って行け」
 て教えらっだ。ところが案の如く鬼だぞろぞろ金背負って来て、博奕はじめたど。そしてええあんばい楽しんでいるときに、まだまだ夜明けまでには早かったげんども、地蔵さまの言うとおり、「コケコッコー」て、トキの声を上げたど。ところが夜明けたというもんで、鬼だ金はみな置きっぱなしにして逃げて行ってしまったど。
「じさま、みな金集めて持って行け。そいつはお前日頃信心していっさげ、お前さ授いだんだから持って行け」
 て、こういう具合に言わっで、じんつぁ持って来たていうわけだ。ところがやっぱり隣のケンゾウじんつぁ見て、
「何(なえ)だて、こっちの家で金どっから持って来た」
「実は庭掃いたら、豆落っでだ。その豆さ従(つ)いて行ったれば地蔵さまあっけ。地蔵さま言う通りにしたれば、鬼、博奕打ちに来た。鶏の鳴き声したれば逃げて行った。その隙間に地蔵さま持って行けて言うので、言う通りになって持って来たんだ」
 こういう具合に言った。
「んだれば、おれも行って持って来(こ)んなね」
 て、豆なの落っでもいねな、撒いてだね、そして入(は)いろても言わねの、穴さ入って行ってよ、やっぱり地蔵さまあっけそうだから、そこさ上がれても言わねのわらわら上がってだど。鬼だ来んな待ってだていうんだ。やっぱり案の如く鬼だ来たど。そうしているうちに、じんつぁから聞いた通り、鶏の声出せばええげんど、屁の音したっていうんだ、大きな、ブウーッて。
「なんだて、屁の音したんねが」
「いや、屁など、んねべ」
「なえだか臭くなって来た、なえだか人いたんだな、人ぁくさい」
 なてよ。そして見つけらっでよ、よくよくいじめらっで、傷だらけなって帰って来たてよ。泣いて。ばさま、
「おら家(え)のじさま、地蔵さまから赤い着物もらって、喜んで歌って来る」
 て。そして家さ帰って来てみたれば、傷だらけだけて。とんびんさんすけ。
(伊藤正作)
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