22 糸合図

 むかしあったけど。
 南の山にお嫁さんもらう年ごろの兄いだっけど。ある人の仲人で遠っがいどっ から、そしてとてもいい家から、兄にはもったいないほどのお嫁さんもらったけ ど。そし里帰りに行くことになったじもの。そしてはぁ、二人で出かけたど。途 中まで行くと、嫁っこが、
「兄んにゃ、兄んにゃ、おらえさ行ったら、あまりやたらに喋んなよ」
 ていって、チンチンに糸縄つけ行って、
「おれが脇にいて、いい頃引張っから、そん時、〈さようでござる〉と、こう言う ように」
 て教えてつれて行ったごんだど。そしてまず、はじめはうまく挨拶も出来たの で、向うのおとうさんも、少しうすのろと聞いっだが、これぐらいなら、まずよ がんべと思ってだど。そのうちに嫁っこがオシッコ出たくなり、ちょいと立って まず糸縄を下駄に結つけて行ったごんだど。そこの家に犬っこ飼ってであったじ もの。その犬っこがそれを見つけてじゃれたど。そうすっど兄は、
「さようでござり申す」
 というども、何度も何度も引張られるので、しまいには、切なくなって、
「さようの頭がもげそうでござる、さようの頭がもげそうでござる」
 といいながら、何度も何度も頭をさげていたところに、嫁っこはもどって、た まげる、親父は怒って、せっかくもらった嫁は取り剥さっで、しおしおとわが家 に帰って行ったけど。むかしとーびん
(川崎みさを)
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