16 糸合図-南の山の兄んにゃ

 むかしあったけど。
 南の山の兄んにゃさ、里からおかたもらったけど。ほして今度、人並みでない もんだからはぁ、盆礼に行くときも、おかた心配して
「明日 (あした) は盆礼に行くども、大勢人集ばっから、そんどき下手なこと語って笑われっ から、何もめんどうなこと語っことない。おれ、あの、大事なものさ糸縄つけて おっから、それ、ちょえっと引張っから、そしたら〈左様でござり申す〉て言え ばええから、そう言えよ」
 ていだど。そしてはぁ、大勢集ばって、さまざま話しているうちにはぁ、〈左様 でござり申す、左様でござり申す〉ていうもんだから、
「馬鹿だなて言うども、こがえに素直に〈左様でござり申す〉て返事するもの、 めんごい兄んにゃだ」
 なて思って、みんないだど。ほしてこんどはぁ、かか便所さ行きたくなったも んだから、ちょいっとその糸縄の端、下駄さ結 (ゆ) つけで行った。そしたら猫の子い たな、じゃれではぁ、くっくっと引張らっじも。そんでこんど〈左様でござり申 す、左様でござり申す〉て、かか引張んなだかと思っていう。そのうちにはぁ、 あんまりじゃれだば、痛くて、〈左様でござり申す。左様の首が抜けそうでござり 申す〉て、そういうど。そうすっど、かかもどってきたどこみんな気付いてはぁ、
「馬鹿だということは聞いっだども、こんな馬鹿なごんでは、とても呉っでおか んね」
 なてはぁ、娘いたどこではぁ、とても駄目だからて、取っぱがさっだけど、可 哀そうな目したけど。むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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