15 枯木見舞-南の山の兄んにゃ

 むかしあったけど。
 南の山の兄 (あ) んにゃ、嫁もらったど。ほして二人で正月礼に行ぐちゅうだど。そ したれば家の衆、
「さぁさぁ、あの、向うの家さ行ったら、立派な焼き物あっちけがら、それ賞め ろよ。南京焼火鉢だっけがな」
 ていうがら、
「こう、はんじぇで見て、ええ音すんべから、そん時そういうて賞めろ」
 て、教えらっで行ったど。そうして行ってはぁ、
「けっこうなお正月でござる」
 なて、まず挨拶したど。やっぱりその火鉢出でてあったど。ほしてはじえたら チーンと音したど。
「いやいや、ええ火鉢だごど、これは南京焼だべか、唐 (から) 焼だべが」
て、こういうたど。
「南京焼だ」
 て、はぁ、そこの親父、大変に得意気だど。
「おやおや、この野郎、馬鹿だと聞いてたが、そんがえ思ったほど馬鹿でもねぇ ぞ」
 と思って喜んでだど。そのうちに寒い日であったもんだからはぁ、じさま寝っ だなな、起きて来たど。
「いやいや、さむくてさむくて、ちいと腹あぶりすなね」
 て、起きて来て、立て膝して、もったもの出したど。吹きの寒い日なもんだか ら、てろてろに光ってだど。ほうすっどその兄んにゃ、
「これもはじくなだべか」
 と思って、
「南京焼だべか、唐焼だべが」
 て、こう、はじいたずも。さぁ、痛くていたどこ、はじがっだもんだから、じ さま、「いたい、いたい」て、縮んでしまったどはぁ。それみたば親父はごしゃえ で、
「こんな聟さは、とても娘呉っでおがんね」
 て、取っぱがさっで、しおしおと家さ帰ったけど。むかしとーびん。
(川崎みさを)
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