14 小倉の狐

 むかしあったけど。
 むかし、小倉峠さ狐いっぱい住んでであったど。そして狐ども相談したど。
「小倉の太郎兵衛の婆さ、臍 (へそ) ねぇじだがら、それまず言うて、御馳走食う工面すっ ぜえ」
 そうして相談してはぁ、時のお役人に化けだど。狐ども。ほして〈こんにちはぁ〉 なて行ったど。
「こっちの家の婆さま、臍ないちゅうごんだが、それ調べることになって来た」
 て、こういうたど。
「ほんなどこ見せねねごんだら、切ないごんだ」
 と思ってはぁ、
「まず、お役人さま、寄っておぐやれ」
 て、寄せではぁ、
「何御馳走したらええんだか」
 て、こう言うたど。ほしたら、
「油揚げと油餅の方、ええな」
 て、こういうずも。
「はぁ、そんなことは雑作 (じょうさ) ねごっだがら、ほんでは、御馳走すっから、まず寄っ ておぐやれ」
 て、臍見らんね工面すんべと思ってはぁ、食いだいていうもの拵えて御馳走し たど。ほうしたば、狐共なもんだから、腹いっぱい食ったずもの。臍のこと忘せ ではぁ帰ってしまったずもの。
 ほして、小倉峠さ帰って来て、踊り出したど。
   太郎兵衛のかがは、
   へそなしかがで、
   油揚に油餅
   よっぱら すっぱら まぐらった
 てはぁ、くりかえしくりかえし踊ってやったけど。むかしとーびん。
(川崎みさを)
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