4 猿聟入

 むかしあったけど。
 じんつぁとばんちゃどいだっけど。じんつぁは夏の暑い日に、火野さ豆の草取 りに行ったど。うーんと草生えでで、じんつぁ取り立てらんねほど生えっだど。
「いやぁ、暑い暑い。この豆の草、ほに、取ってくれる人あんだら、娘三人持っ だ、どれが一人呉れっどもな」
 て、こう言うたど。したば、ガサガサ、ガサ出て来たど。山のおんつぁ。
「じさ、じさ、何語った」
「何も語んね」
「語んねなていうど、こちょばすぞ」
「いや、今、豆の草取ってくれる人あっど、娘三人持った、誰か一人呉れるて、 そう言うた」
 て言うど、
「おれ、取ってくれっから、おれに呉ろ」
 猿なもんだから、ひゅうひゅうひゅうと取って、一時 (いっとき) に終 (おや) してしまったど。
「じさ、じさ、もらいに行んから、呉ろよ」
 じさも気重いども、家さ来て、まず飯食って寝たど。次の朝げになって、
「何としたらええがんべ、まず」
 と思ってはぁ、起きらんねずも。したら姉娘、
「じんつぁ、じんつぁ、飯出たから、あがれ」
 て、起こしに行ったずも。
「御飯食うもええども、にさ、まず、おれ言うこと聞いて呉んねが」
「なじょなごっだが言うてみろ」
 したら、
「実は、昨日 (きんな) 、豆の草取りに行って、あまり暑かったもんだから、この草取って くれる人に、娘一人くれるて約束した。一人言 (ごと) 語ったらば猿出はってきて、草取っ てくっで、そさ呉んねねごどになったから、行って呉んねが」
「何語っていんべ、まず。猿のおかたになてなられっか」
 がちゃっと戸立てて行ったど。
「はて困ったもんだなぁ」
 と思っていたば、二番目の娘行って、また起すど。ほしてじんつぁ、またそう いう風に頼んだど。
「何もんぼれ語っている。このじさま」
 て、枕蹴っとばして行ってしまったど。そして三番目んな、お花と名付いであっ たど。それ起しに行って、じさはぁ、また語ったど。
「猿の嫁になってくんねぇが」
 て。ほしたら、「ええどこでねぇから、起きろ」
 ていうずも。ほして起きてまず飯 (まま) 食ったど。ほうしていたば、こんど猿ぁ新し い手拭いなど、頬かぶりして、もらいに来たど。して、もらわっで行ったずもの。
 そして次の年の節句になったど。
「節句礼に行きたい」
 て、餅搗いたど。そして、「どの重箱、ええ」なて言うずもの。
「いやいや、おらえのじんつぁは重箱くさいて、重箱の餅は食ねし」
 なていうた。
「んでは朴の葉だか」
「朴の葉くさいて食ねし」なて。
「ほんでは、なじょにしたらええが、臼まま背負って行んか」
 ていうずも。
「そうしてもらえば、一番ええなぁ」て。
 猿、臼背負って来たど。川端通りかかったら、なんぼかきれいな桜咲いっだど。
「いや、きれいな桜だごど。おらえのじんつぁ好きなだどもなぁ」
 て、こう言うたど。
「ほんじゃ、おれ、折 (おしょ) っから」
 て、どっこいしょなて、臼降ろす気になったど。
「いやいや、土くさいて、じんつぁ食ねがら、降ろさねでくろ」
 ていうた。
「んでは、背負って登っか」
 背負って登って行って、「この枝ええか」て、手伸ばしたら、
「もうちっと上んな、格好ええようだな」
「では、この枝か」
「いや、その上んな、ええようだな」
 て、こう言うたど。そしてそさ手伸ばすどさ、裏(先)の方になったもんだか ら、ポキンと折れで、臼背負ったまんま、川さガボンと落ちだど。ほうして流れ 流れ、
   猿沢に流るる命おしくはなけれども
     後にのこりし お花こいしや
 て、そう言うて流っで行ったけど。そしてお花、家さ来て、じんつぁに教えた ば、「ほんでは、ここの家さ、親孝行だから、お前にゆずるぜぇ」
 て、家ゆずってもらったけど。むかしとーびん。
(川崎みさを)
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