3 蛇聟入むかしあったけど。あるところに、じさまと娘三人いだっけど。ほして、そこの家では前田千刈、 裏田千刈、田持っていだんだけど。 その年は旱魃で、みな前もうしろも田干 (ひ) ってしまったども、なかなか水掛けら んねがったずもなぁ。すっど、じさはぁ、水見に行って、一人ごと語ったど。 「いや、まず前田も裏田もみな干ってしまった。前田千刈、裏田千刈、みな水た くさんに掛けてくれるような人あれば、三人娘持ってだ、どれか一人呉っども なぁ」 なて、つぶやいた。ほうすっど、薮の中から若い男が出てきて、 「おれ掛けて呉れんべ。おれに呉れっか、じさ」 て言うたじも。 「ああ、悪れごと語った」 と思ったども、いうてしまった口引込めらんねもんだから、 「あまりええ、掛けてくれれば呉れる」 て言うたずも。ほして、 「本当は、おれはそこさ住んでいる蛇 (じゃ) だども、水かける段になれば、雑作なく掛 けて呉れっから、どうしても娘呉ろよ」 て、そういうたど。ほしてこんど、じきに約束すっど、その晩げに、お雷鳴っ て、ざぁざぁと雨降らせてはぁ、前も裏もだっぷり溜ったてもはぁなぁ。ほして こんど次の日、じさにその若い男来たじも。 「おれ、じさ、約束した通り、前田も裏田も掛けたから、娘、おれに呉れろよ」 「まず、おれ娘に語ってみっから、二、三日返事待ちてくろ」 てだど。そして次の朝げ、じさ、 「われごと語ってしまった。これ、蛇だておれ聞いだが、蛇に嫁にやるなていう たて、行ぐことも出まいし、おれだて、やりたくない。悪がったことしたもんだ」 と思って寝っだば、大きな娘、起こしに行ったど。 「じんつぁ、じんつぁ、御飯 (おまま) 出っだから起きろ」 「おれは、まず、聞いてもらいたいことがあるが、それ聞いてもらわれれば、起 きて食うし、それ聞いてもらわねば、御飯、まず食んね」 「何でも、じんつぁ言うこと聞くから、語ってみろ」 「おれ、田の水掛けっだいばっかりに、こういうこと言うて蛇に呉れるつもりし たから、行って呉ろ」て。 「馬鹿語って、蛇さ嫁に行かれるもんであんまい」 て、ふくれて戻って行ったど。 こんど二番目の娘、また起しに行ったど。じさ、同じこと語ったば、 「おらも嫌んだ。そんなどこさ行かんね。蛇のかかなっていられっか」 なて行ってしまった。 こんど三番目の娘、起しに来て、 「姉だち誰も行かねていう、誰だて蛇のおかたに嫁 (ゆ) かれねべも、おれはこういう こと約束してしまった」 「んだら、おれ行んから、起きて御飯食え、んだども、おれ、何もほがえに仕度 いらねがら、ひょうたん千と針千本買ってもらわねね」 ていうたずもな。ほしてこんど、 「あまりええがら、そんなこと、雑作ねことから、ほんじゃ飯 (まま) 食って買って来っ から」 そしてこんど、飯食ったじし、約束なもんだから来たじしな。 「じんつぁ、じんつぁ、相談出たべか」 「三番目んな、呉れることにしたから」 そしたば、何時 (いつ) いつ御祝儀するなて約束して、御祝儀んどき、こんど千のふく べん整えて箱さ入っで、それば長持のようにしておいだごで。 ほしてこんど、蛇聟迎えに来て行ったごんだ。ずうっと山奥まで行ったば、沼 あっけど。そさ、先になって蛇の姿になって入ったずも。 「さぁ、おれ入ったから来い」 て。そしてこんど、 「おれ、まず、もらってきた道具入っでもらわねねがら、この箱から出して入っ でもらうべ」 ほして、こんど、蛇はそのふくべんくわえて、 「これ、沈めて持ってってくれれば行ぐども、そうでないば行かね」 てな。蛇は一生けんめいで蛇の姿になって、そのふくべんくわえて持って行く ども、沈める気になれば、こっち浮き、別ななすればまた浮きではぁ、とても沈 めれねでいるうちにはぁ、針はばらばらと出はって、みな体さ刺さって、死んで しまったけど。大きな蛇の姿になって。 ほれから、こんど、 「ああ、ええがった、まず。これで親孝行したから、家さ帰れる」 と思って来て、語ったれば、 「ああ、ええがった、ええがった。お前のおかげで、ほんではおれも助かるし、 この家も立って行がれっから、前田千刈、裏田千刈はお前のものにして、後継い でけろ」 て、じさま、安態して、娘、聟とって継ぐことに決めたけど。むかしとーびん。 |
(高橋しのぶ) |
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