40 こぶとり

 むかしあったけど。
 まいど、じじとばばいだっけど。じじぁこぶ出て、こぶが出て痛い痛いていた れば、こがえにこぶ張って病 (や) めて仕様ないもんだから、こんどぁ、
「ほだれば、団子拵えて呉 (け) っから、じんつぁ、山の神さおこもりに行って来やれ」
 ていたど。そうしてばば、トンカトンカと粉はたいて、団子拵えで、うまい団 子拵えて行ったけどな。黄粉団子にアンコ団子に、じじさ背負わせて、おこもり にやったど。そうしていたところぁ、
「このこぶを治しておくやい」
 て拝み申しったど。そうしたば、あっちの石坂の方から太鼓打つ音から笛の音 からヒョロヒョロヒョロなて、
「いやいや、何だてお祭りみたいな音する」
 なていたら、山の神の前さ、ずっと来て、太鼓・笛が来て、火どんどんと焚い たもんだどもな。そうすっど一生けんめいに歌ったりまったりして、踊ったりす るもんだから、じじも好きなもんだから、面白くて山の神の戸から覗き込んで見っ だっけ。そしたば、
「あら、なえだ、じじ来たでないか、じじ、じじもはまれ」
 なて言わっだど。
「いや、おれは踊りざぁ大好きでよ」
「ほんじゃらば踊れ、まず」
 なて言わっで、そうすっどじじも前に出はって来て、こぶ出して踊りおどったっ けて。そうすっど、
「いや、じじ、踊り上手だ、上手なもんだ。こりゃ面白い」
 なて、猫は三味ひきで、ムジナは太鼓、イタチは笛吹き、狐もいて、「また明日 来い」なて言うたば、「また明日来る、こがえな面白いどこさ」なて言うて、「じ じぁ明日来ねじど悪いから、そのこぶ取る」どかて、狐はガブリこぶ取ったど。
そうすっど猫ぁケタケタ、ケタケタと舐めて、そのこぶの跡きれいにして呉れた ごんだど。そうすっど、じじぁ喜んで、
「おれぁ団子もってきたげんど、団子食うか」
 て言うたば、
「そりゃ、うまがんべな」
て、そして団子食せて、「うまい団子、じじぁ持って来た、こりゃうまい団子だ」 て、団子ぺろっと食せて、明るくなったから、朝帰りして来たど。そして来たば、
「いやいや、おらえのじんじ、ええ男になって来た。こぶ、なじょした」
「ゆんべな、イタチとかムジナとかいっぱい来て、面白いがった。踊り好きなも んだから、踊りおどって、いや面白いがった。そうしたところぁ狐ぁこぶとって 呉っじぇ、猫に舐めてもらった。きれいになった」
「そんじゃ、ええがった」
 なて、ばんばと二人で喜んでいたどこさ、また隣のばば、朝げに火もらいに来 たど。
「こんにちはっし、火呉 (け) でおくらえし」
 なて来たど。「はい」なて言ったらば、
「あらら、こっちの家のじんつぁ、なえだごど。こぶさっぱりない。何したなだ」
 て言うたど。
「いや、ゆんべな団子拵って、おこもりに山の神さまさ行って、やったれば狐に イタチに、こうしてみんな夜来て、山の神のどこで、こぶ取ってもらって来たど」
「ほんじゃらば、おらえのじじもやんなね」
 て言うけずぁ、ばば真似して、家さ行って、あっちこっち黄粉つけて、たんと うまくもない団子拵って背負わせてやったど。そうすっどこんど、また狐たちぁ、 夜になると来るつけぁ、そればり待っでいたれば、またあっちから来たていうけ なぁ。ムジナ太鼓叩いて、三味ひきは猫で、イタチは笛吹きで来たど。そしてま た火ドンドン焚いて、
「また踊んべ、今夜はじじは来てねな」
 ていたけずぁ、
「じじぁ、今夜も来るつけなぁ」
 て見たれば、来ったけもの…。
「あら、じじ来た。今夜はなえだか別なじじ来ったな。ゆんべなこぶなくしてやっ たに、こぶあるじじまた来ったな」
 て言うけど。
「ほんじゃ、このじじも踊ってみろ」
 て言うたど。
「あまりええ、おれも踊ってみんべ、んだげんどもおれざぁ踊り下手だ」
 て言うたど。
「なえだ、じじ踊り下手では分かんない」
 て、おんつぁっで、そして、
「ゆんべなのじじのこぶ、もう一つ喰付けてやる」
 なて、こっちの方さもこぶ喰付けらっだど。そうすっど、
「おらえのじじもこぶ取ってもらって、隣のじじみたいにきれいになって来んべ」
 て、ばば屋根の上でトンコベラ立てて、尻あてて待っていたど。そうしたとこ ろぁ、じじは「オンオン、オンオン」て泣き泣き来たど。んだから人真似ざぁす るもんでないど。ばばぁ屋根の上から落っで死んだけど。とーびんと。
(大平・嘉藤)
>>飯豊町昔話集 目次へ