39 地蔵浄土

 じじは山さ柴刈りに、ばばは川さ洗濯に行って、じじがヤキミシ食うど思った ら、ヤキミシがかっ転んで、ねずみ穴みたいなさ、コロッと入ったから、じじも ポイッと入ってみたど。そしたばきれいな川原さ、地蔵さま立っていたっけど。
じじは、
「地蔵さま、地蔵さま、ヤキミシかっ転んで来ねがったべか」
 て言うたら、
「かっ転んで来たっけ。半分食って半分残してだ。食うが」
 て言うたど。「食ね」て、じじぁ言うたど。
「ほんじゃ、晩げおらえさ、鬼こどら遊びに来っから、鶏の真似して呉ねが」
 て言わっだずも。そうすっど、
「ほんじゃ、あまりええ」
「ほんじゃ、二階に上がっていろ。暗くなっど来っから」
 て言わっじゃど。
「おれヒザかぶさあがれ」
 て言わっで、
「いやいや、地蔵さまのヒザさなど、もったいなくて、あがらんね」
 て言うたど。
「ええから上がれ、ええから上がれ」
 て言わっであがったど。
「ほんじゃ、肩さ上がれ」
 て言わっじゃごんだど。
「肩さなど、とてもあがられるもんでない。地蔵さまの肩さなどあがったら、足 曲がってしまうべ」
 て言うたげんども、あがれあがれて言わっでまた上がったど。こんど「頭さ上 がれ」て言わっじゃど。「いやいや、頭さなて、かえってがもったいないくて上が らんね」
 て言うげんども、
「ええから上がれ、ええから上がれ」
 て言わっで二階さ上がって行ったてよ。そうすっど晩方になって、鬼こどら来 た音すっけってな。ヤイヤイヤイて来た音すっから、二階でいて黙っていだっけ ど。そうすっど博 (ばく) 奕 (ち) 打ち始めたど。おれ一だ、おれ二だって、一生けんめい始め たけな。そして朝方になっど、
   パタパタ、コケコロコー
   パタパタ、コケコロコー
 て音立てたど。
「ああ、一番鶏鳴ったな、始めろ」
 なて、また始めたど。そして一生けんめいで、二だの一だのて、うんと取って だもなぁ、そして博奕していたれば、また二番鶏、「パタパタ、コケコロコー、パ タパタ、コケコロコー」ていうもんだから、
「ほら、二番鶏だ、三番鶏だと行かんなね」
   どかて、一生けんめいで、銭でっちら持 (たが) ってしったったてよ。そうすっど、お れ勝った、誰勝ったっていたっけぁ、また三番鶏、「パタパタ、コケコロコー、パ タパタ、コケコロコー」ていうたもんだから、
「朝げになった、夜明けたから、大慌てて行かんなね」
 て、銭などみな投げて行ったっけど。そしていたら、地蔵さまに「降っで来い」 て言わっで、また、「なじょして降りる」て言うたらば、頭さ上がって肩さ上がっ て、またもったいなくて上がらんねて言うたげんども、「ええから上がって」て言 わっで降っだって。そうすっどその銭みんなもらって、「みな持って行げ」て言わっ じゃど。
 そうすっどその銭でっちらもらって来たれば、朝げに、
「ばば、ばば、ゆんべなヤキミシかっころんで、こういうに行ったれば地蔵さま 立って、トリの真似して銭でっつら持って来た」
 て言うたって。そして、ばば喜んでいたれば、隣のばば、朝げに来て、
「こんにちはっし、火呉っでおくらいし」
 て来たけど。銭出しったったべも。
「いやいや、こっちの家で、この銭、どっから出しやった」
 て言うたど。
「おらえのじんじ、山さ柴刈りに行って、ヤキミシかっ転ろばして穴さ入ったか ら、じんじも入ってみたれば、地蔵さま立ってだけど。そしてこういうわけだ。 鶏の真似してもらって来た」
 て、教えたど。そうすっど、ばば、ワラワラと家さ行って、
「おらえのじじもやんなね」
 て、走って行って、
「じじ、じじ、隣のじんつぁ、まず昨日柴刈りに行ってヤキミシかっ転んで行っ たから、そこの穴さ入って行ったら、地蔵さま立っていたから、行って、そして 地蔵さまから銭でっつらもらって来た。そなたも行って来 (こ) られ」
 て言うど、じじさヤキミシ、カテ飯 (めし) であずけてやったて言うけぁ。そうして柴 切りに行ったら、ヤキミシ、ツンと転ろがし、かっ転びもしねな。ツンと…。銭 ばり欲しいもんだから、かっ転ばし、かっ転ばし、穴の中さ入ったど。そうした らやっぱし地蔵さまが立っていたけずもな。きれいなどこさ。
「地蔵さま、地蔵さま、ヤキミシかっ転んで来ねがったが」
「転んで来たけ。あんなカテ飯、うまくなくて食ねで置いっだ。そさ置いっだ」
「食うか」「食ね」て言うた。
「ほんじゃ、晩に、おらえさ鬼こどら来っから鶏の真似して呉ろ」
 て言わっだど。「はい」なて言うて、喜んでいたずも。
「んじゃ、天井さあがって行げ」
 なて言わっで、ヒザかぶさ上がれとも言わねな、じじぁヒザかぶさ上がって、 肩さ上がれと言わんねな、肩さ上がって、頭さ上がって、天井さ上がって行った ど。そうすっどまたドヤドヤと来たけて言うけな。「地蔵さま、地蔵さま」なて来 たけて言うけな。そうすっどまた一生けんめいで始めて、一だ二だているうちに、 また鶏の真似しろて言わっだから、「パタパタ、コケコロコー」て言うたずも。
「ああ、一番鶏唄った」
 こんどまた一生けんめいしったれば、二番鶏「パタパタ、コケコエロコー」て いうた。
「ああ、二番鶏鳴った。夜明けて来っから、三番鶏で行かんなね」
 て、しったけど。そうすっど、また「パタパタ、コケコエロコー」て。こんど 屁たっじゃごんだど。じじがよ。そうすっど、
「なえだ、人くさい、地蔵さま人飼ってだのであんまい、鶏でないな」
 て、ワラワラと二階さ上がらっで、
「おれ足食う」「おれ手食う」のて、ぺろっと鬼こどらに、そのじじ食っだけど。
んだから人の真似ざぁするもんでないけど。とんびんと。
(大平・嘉藤)
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