34 牛方と山姥 ー与三むかしー

 むかしあったど。
 与三、牛 (べこ) 二匹連 (せ) て越後さ魚買いに行ったど。そうすっど魚、二匹の牛 (べこ) さいっぱ いつけて来たれば、途中で暗くなったのだもな。
「早く歩 (あ) えべ、早く行かねど化物来んぞ、早く歩 あ えべ」
 て、追って来たば、そのうちに出はって来たど。「与三、魚一本呉ろ」なて言う。
「魚、やっと買って来たな、呉らんね」
 なて来たら、そしたば「ほんじゃ、にしゃどこ取って呑むぞ」なて言う。与三、 仕様 (ししょ) ないもんだから、牛の魚一本取って呉たど。そうすっど、なじょな間に食っ たんだか、ワリワリ、ワリワリと食って、また追ってきて、
「与三、まだ足んないから、まだ魚一本呉ろ」
 て言うもんで、「呉らんね、呉らんね」なて、何度も食 (か) っで、一匹の牛のみな無 くなったど。そうすっど、
「後の牛のも呉ろ」
 なて言わっで、後の牛のも呉 (け) でしまったど。「魚もっと呉ろ」て言うから、「魚 みな呉 (け) で、無い」て言うたら、「んだら、牛呉ろ」て言わっじゃど。そうすっど牛 もモウモウと言うの、むごさいげんど呉ろって言うの、そうしねど、「にしゃどこ 取って呑むぞ」て言う。恐っかないもんだから牛も呉っじゃて。そうすっど「い ま一匹呉ろ」て、二匹みな呉っじゃど。そうすっど、「われ、食われるばりだ」と 思って、ワラワラ走って来たど。そうしたところぁ大きな深い川あったどもよ。 そうすっどワラワラと泳いで行って、中の木の上さあがって見っだど。そうすっ どまた来たずも。鬼婆、「与三、与三」て言うけぁ、「なえだ」て言うど、「ここ、 なじょして行った」て言うたら、
「袂さ、いっぱい石入っで来た」
 て言うた。そうすっどその鬼婆も正直なもんだから、袂さ石いっぱい入っで、 「このぐらいが」て言うけぁ、「もっといっぱい入っでだぁ」て言うたど。そうすっ ど袂さいっぱい石入っで漕いだっけな。そうすっどズプッと沈んで、またズプッ と沈む。与三はワラワラと逃げて来たっけど。
 そうして来たところぁ、ポカリポカリと小屋みたいな家ぁ一軒あって、灯 (あか) し見 えっから、そこさワラワラ頼って、「お晩になったっし」て言うたら、「はい」な て、若い娘一人いたけずもな。そうすっど、
「いやいや、今日越後さ魚買いに行ったけぁ、牛二匹さ魚買って来たげんど、魚 はみな食われる、牛がらみ食っじゃ。こんどおれも食れっから、どうか助けてけ ろ」
 て言うたど。
「ほんじゃ、そいつおらえのばんさだべ」
 て、その娘言うごんだど。そうすっど、
「ほんじゃ、二階の上さでもあがってで呉 (け) ろ」
 て言わっじゃど。そうすっどやっぱし二階の高いどこさ上がったもんだど。
「姉、姉」て、来た音すっけど。「はい」て言ってだけど。
「与三に、カブダレ餅食せらっで死ぬどこであった」
 て来たけど。「早く寄れ、寄れ」なて寄せて、火焚いて、こんど当てたど。そし て背中あぶりしたけど。
「あんまり腹へったから、酒でも飲むべ」
 て言うので温めてけたど。そうすっど与三も、われも腹へったもんだから、青苧 (おぎ) の棒でツウッとその酒ぺろっと飲んでしまったど。二階の上にいてよ。鬼婆眠て 起きてみたら、
「酒温まったべから、酒飲むべ」
 なて起きてみたずも。そしたら酒さっぱりない。
「酒さっぱりない、火の神飲んだんだか、何の神飲んだんだか、さっぱり酒ない。 ほんじゃ餅でもあぶって食うべ」
 て、餅をワタシさいっぱいあぶったど。そうすっどその餅も与三は天井で棒さ チョクッと突いて、あぶっては食い、鬼婆、そこさ眠っだもんだから、餅ぺろっ と食ったど。そうすっどこんど餅焙ぶっじゃら起きて食うべと思っていたら、ま た餅さっぱりないもんだ。
「いや、餅もさっぱりない。火の神食ったんだか、ワタシの神ぁ食ったんだか」
 て言うもんだずも。こんどは「寝んべ」て言うけずも。
「姉、寝んべ。木の唐戸さええか、石の唐戸ええか」
 て言わっじゃど。
「木の唐戸さ寝んべ。あんまり寒いから」
 て、木の唐戸さ寝たごんだ。そうすっど与三は姉と二人で組んで、大鍋さでっ ちりお湯わかして、煮立てて、キリで穴あけだけど。
「今夜、あまりええもんだから、キリキリ虫ぁ音する」
 なて、中で寝っだもんだど。そうすっど、穴からガラガラと煮えた湯をそこさ どんどんと入っだずも。
「姉、あついあつい、姉、あつい」
 て言うど、
「何、姉であんべ、おれぁ与三だ、牛の魚みな食って…、姉でない、与三だ」
 て言うたど。
「与三助けろ、与三助けろ」
 て言うたど。そしてだんだんに音ちっちゃくなって、「与三助けろ、与三助けろ」 て、こんど音しねぐなったど。そして死んでしまったべ。次の日開けてみたらば、 化けものは大きな火椀だったけど。とーびんと。
(大平・嘉藤)
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