20 狐女房

 おかた持たねで、一人で炭焚きに山さ行ってだど。そさ、狐、女になって来て よ。そうすっどくるくると、ええ女になって泊っていたら、子どもできたのよ。 その子どもに男の子だったので童寿丸と名付けたど。
 その子がだんだんと大きくなって、山さ行ってだうちに、おっかさと二人でい だんだけど。そうすっど、昼休 (やす) びしたんだどなぁ。そうすっど、
「化げ大きないた、ワワいた、ワワいた」
 て、正体現わしてしまったもんだど。そうすっど、「恐かない、恐かない」て泣 いだ。
「さぁさ、困った、正体現わしてオボコにまで憶えらっでは、とてもおれはいら んねぐなった」
 て思って、くるくるって陰さ行って三度廻って、ええ元のダダになって来たけ ど。
「童寿丸、なして泣く。ワワいたなて、ワワいねごで」
 て騙したのよ。そうすっど、
「おれは正体現わしたから、親父と、とても一緒になっていらんねがら…」
 て逃げたのよはぁ。狐になって、やせ狐になってプンプン、プンプンと信太の 森さ行ってしまったのよはぁ。そして親父来たれば、オボコ一人で泣いっだけど。 「坊、なして泣いっだ。おかちゃ、どさ行った」
 なて言うたげんど、アンアン、アンアン、おかちゃ、おかちゃて泣いっだごん だど、かまわず…。そうすっど仕様ないもんだから、見たれば屏風さ書き置きし てあったど。
「おれは狐である。今までお前に御厄介なり申したげんども、とてもおれ正体現 わしたもの、子どもに見つけらっじゃ、とてもいらんねがら、用あらば信太の森 の葛の葉さ来い」
 てあったど。そんでオボコ背負って信太の森さ行ったど。
「信太の森の葛の葉、信太の森の葛の葉」
 て行ったげんども、行き会わんねくて、下さ行けば川の音、ごうごう、ごうご う。天井さ来れば笹葉の音ばり、ガサガサ、ガサガサと音する晩で、さっぱり行 き会わんねがったど。
「んだから、帰んなねごではぁ」
 て言うど、オボコは「かあちゃ、かあちゃ」て泣くばりだったど。
「ほんじゃ、また降っで行って見っか」
 て降っで行ってみたところぁ、ええ女になって来たっけど。
「今まで、おれも厄介になり申していたげんど、とても狐だったから、こういう わけで…」
 て語って、「んだから、こんで別れだから、もしか変ったことあっじど、おれの 一番大事な宝生の玉、何かあっどきに耳に当てて聞け。この大事なもの、このオ ボコさ呉れっから…」
 て、そいつ呉っで、こんど、
「ほんじゃ、これでお別れだから、安名殿、安名殿」
 やせた狐になってピンピン、ピンピンと行ってしまったど。そしてこんど家さ 来て、大きくもなったべもな。そうしたところぁ、家のぐるりさ烏来て、カァカァ て、うんと鳴いだど。宝生の玉耳さ当てて聞いたところぁ、旦那衆の親父、病気 で医者も典者もかなわねくて、なんぼしても病気で死にそうになってってだから、 そこさ行ってみろと言うけど。そして「サンオキ、サンオキ」て行ったど。そし て行ったれば、「サンオキ、サンオキて、何か来っだぜ、オボコなど連 (せ) て来った。 あげな者だげんど…」て、若衆見つけで、「早く招ばって来てみろ」なて、招ばっ て来たど。そうすっど、
「まず、今夜はくたびっだから、明日の朝にさせて呉ろ」
 て、サンオキしないで、その晩衣裳など息子ええ着物きせらっで、お湯さなど 入れらっで寝せらっじゃて。
 こんど朝げに早く起きて十二才ばりになったヤロコ起きてザブザブて水垢離 とって、チャクチャクて、サンオキしたど。そしたらこれは唯ごとでない。家を 建てっどきその土台さ、蛇とガマと喧嘩して、今呑むかとしていた。それを早く 掘り返しすっど、この病気は一枚紙はげるように治るというど。
 そうすっど若衆いっぱいでそこ掘り返してみたところぁ、やっぱしその大きな 蛇とガマ、大きな喧嘩していたけど。そして取ったれば一枚紙はげるように、そ の病気治ったど。そして金でっちらもらって来たど。とーびんと。
(大平・嘉藤)
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