10 猿聟むかしあったど。じじ一人、娘三人ええの持ったど。んだげんども田いっぱい持ったげんども、 田さ水かけべくもないもんだど。 「なじょして水掛けたらええんだか」 て思っていたらば、猿ぁ来たけど。そしたらば、 「猿、猿、おらえの娘、おかたに呉れっから田さ水かけて呉んねぇか」 て言わっだものな。そしたれば、「あまりええ」て言うけぁ、猿ぁ一時に水掛け て呉っだけど、田さ。そうすっど、猿水掛けたから娘呉るというもんだから、一 番大きな娘呼ばって、 「娘、娘、おれの言うこと聞いて呉 (け) ねが」 て、言うたど。「何だべ」て言うたど。 「猿のおかたになって呉ねが」 て言うたど。「何語っていんべ、おらえのおどっつぁま」どかて、わらわら逃げ て行ったど。 「さぁ困ったごんだ。大きな娘、嫌 (や) んだて言うもの、その次の娘だって嫌 (や) んだと いうべもな」 て思って、こんど二番目の娘呼ばったって。「おれの言うこと聞いて呉ねが」て 言うたど。猿ぁ何時 (いつ) の何日 (いつか) に来 (こ) いて、日取り決めて行ったんだからって、そう言 うど、 「猿に水掛けてもらったがらって、猿のおかたになって呉ねが」 て言うたど。 「何語んべ、おらえのじさま、猿のおかたになれって、おら嫌 (や) んだ」 て、そいつも逃げて行ったって。 「さぁさぁさぁ、困ったごんだ」 て、じじ、頭病 (や) みしたどもなぁ。 「いま一人の娘、何て言うもんだか、こりゃ。猿さ何て言うたらええんだか」 どて、心配しったってな。そうすっど、また三番目の娘呼ばって聞いだど。そ したれば、「おれ言うごと聞いて呉ねが」て言うたど。 「何や、おどっつぁま」 て言うたど。 「猿に田さ水掛けてもらって娘呉れっからって言うて、猿は何時 (いつ) の何日 (いつか) に来るて いたから、そん時までに決めておかんなね。猿のおかたになって呉ねが」 て言うたど。そうしたら、その娘賢こくて、 「いやいや、おどっつぁまの言うことなど、何でもええどこでない」 て言うたどもな。そうすっど猿のおかたになって、猿ぁパカパカパカと来たず もな。その日決めっだときに。そうすっどその娘、猿のおかたになって呉っじゃっ たど。 そして嫁 (い) って、三月のお節供になったど。春になってよ。こんど、 「餅搗いて背負って行かんなね」 て、猿と娘語ったずもな。そうすっど餅搗いて、「何さ入っで背負って行かんな ね」て、猿言うたずもな。そうすっど、「おらえのおどっつぁま、重鉢さ入っで行 ぐど、重鉢くさいって言うも」 「ほんじゃ、鉢さ入っで行んか」 「鉢くさいて食ねも」 「ほんじゃ、臼さ入っで行んか」 「ほんじゃ喜んで食うべ」 て言うたずもな。そうすっど猿は臼さ入っで背負って行ったどこだど。そうすっ ど娘賢こいもんだものな。臼背負わせて来たどもな。そして途中まで来たところ が、里前さ来たらば桜花咲いっだどこだものな。 「いや、きれいな桜花咲いっだごど。桜花、おらえのじじ、大好きなごんだ」 て言うど、 「んじゃ、おれ折 (お) だって来っからな」て、「臼降 (お) としてが」て言うど、「臼降とし て行くと餅うまくなくなっど」て、臼背負わせて登らせたど。「この枝か」「その 枝でない、いまと天井の上んな、きれいだな」「ほんじゃ、こいつか」 そしてシンポエまで上らせたど。そうすっど枝折っで、猿は沢さ臼がらみ落っ で死んだごんだど。そうすっど娘来て、じじに喜ばっだど。とーびんと。 |
(大平・嘉藤) |
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