24 小僧持念―火事の知らせ―

 楢下の持念ていう小僧っ子が、最近めきめき頭角をあらわして来たので、庄屋のある人が、そいつ妬んできた。(しよね)んできた。
「あの野郎、いつか鼻あかしてけんなね」
 と思って、常々(つねがね)つらく当った。まぁ〈魚心あれば水心あり〉て言うのの反対で、
「あの庄屋、ほに、人ば、ママ子あつかいにしてうまくない庄屋だ。いつか仇とってけんなね」
 こういう風に思ってだ。ところがある晩、隣村火事になった。ぼんぼん、ぼんぼん火事になった。ほうすっど持念は羽織・袴さ裃着て、
「庄屋さん、庄屋さん、隣村火事でござんす、隣村火事でござんす」
 て言うた。声低く出したから起きね。ほして何だか、もさもさすっから、奥方起きてみたれば、裃姿で持念さんがいたわけだ。
「何だ、持念さん」
「いや、隣村火事で、今しがたまで、ぼんぼん燃えっだげんど、お知らせ上がった」
「何だ」
 旦那さ、いきなり奥方教えに行ったれば、
「ああ、ほうか」
 て言うわけで、旦那、おっとり刀で走って、吹っとんで行ったときには、火事は終って、ほして役人から、
「何だ、庄屋のくせして、その怠慢ぶりは隣村火事だていうに、かけつけらんね庄屋では、わかるもんでない」
 て、こてんぱんに油しぼらっだ。
「あの持念の野郎、ほに、おえね野郎だ。裃着て、『あ、火事だ、火事でございます』て、お湯の中で屁たっだみたいなこと言うてっから、おれぁこだなことなった。よし、あの野郎、しぼってけらんなね」
 て言うわけで、帰って来て、
「こりゃ持念、おれはただ今、油しぼらっで来た。こんどから戸でも何でも、バカバカ叩いて、ほして、おれば起こせ」
 こういう風に言った。
「はい、かしこまりました」
 こんどは次の日、カケヤ(大工さんがタテマエの時など、上でバンバン叩く、あのカケヤ)持って行って、雨戸であろうが、表のササラ戸であろうが、ジャガジャガ引っぱだいた。
「旦那!!火事だ、旦那、火事だ」
 て、いきなり、ぶっ魂消て起きて来た。
「どこだ、火事は」
「庄屋さん、起こし方ざぁ、このぐらいで(なん)たべっす」
 て言うた。
「どこ火事だ」
「いや、まず、どのぐらいでええか分んねくて、あとでまた低いがったの、高いがったのて、ごしゃがれっどなんねから、ちょえっと練習してみたんだ」
「練習か、練習だら、こだえぼこさねてええがんべな」
 ほれから決して、持念さいじわるしねがったどはぁ。どんぴんからりん、すっからりん。
>>へらへら話 目次へ