21 大ぼら吹きの災難

 むかしむかし、ある船の渡し場で、雲助だ、船頭だど酒飲んで、大ぼら吹きはじめた。ガヤガヤ、ガヤガヤて、お客さまだ眠らんねくて大迷惑だ。
「いや、おれは山で、牛ほどもある熊の口の中さ手突っ込んでやって、(はらわた)みな引っ取り出して、ほうしてその熊殺したった」
 なて言うのいたと思えば、
「猪ばにぎりこぶし一つで()めだ」
「いやいや、おれはな、海さもぐって行って、人より大きい蛸ば、足ば千切って投げ、千切って投げして、頭だけ(たが)ってきた」
「鯨ば()めた」なていろいろ自慢話したら、ある人が、
「いやいや、おれはな、こだなもんでない。今はこだえして、雲助やっていっけんども、元は大泥棒だった。通る人、みなぶち殺して銭とった。あの時なの、三年前に、侍ばぶち殺して五十両の金()ったった。お前だ、五十両の金拝んだことあっか。おそらくないだろう」
 ガヤガヤ、ガヤガヤてお客さま一人もねむるもさんね。
「こだんだら困ったもんだ」
 と思ったれば、隣にいた若い町人風の者は、
「いや、実は三年前、その大泥棒に殺さっだなの、おれは息子だ。親父の仇、覚悟しろ」
 て、あいくち抜くそぶり見せた。
「さぁ、みんなここで見届けて行ってけろ。おれは仇討ち赦免状もっていだんだ。こいつがおれど、ここで行き会ったは、百年目だ。ただ今から尋常に勝負して、そい首叩き落として呉れっから」
 こうなったれば、ほの、今まで大ぼら吹きしった雲助は、いきなり両手ついて、
「いや、おれは雲助こそしてっけんども、人なの殺したことないなだ。嘘だった」
「何だ、とんでもない。嘘は絶対()ねて言うたではないか、ただ今から、お前の首もらわんなね。三年前、おら家の親父は五十両(たが)って通るとき、何者かに殺さっだ。それで手がかりもなくていたところが、何の機縁か、ここでそなたとめぐり合った。いざ尋常に勝負、勝負」
 て言うたら、青くなってワナワナふるえてしまった。ほしてはぁ、後のものもはぁ、参ってしまってはぁ、音一つ出さねでしまった。して、
「何とか、この場をお見逃し下さい。ほだなもんでない。おれはほだなことしたことないのだ」
 て、あやまった。して、ほの若者は、実は役者だった。んだげんども、あまりにもやかましくて寝らんねから、みんなのために一芝居打ったんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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