19 小僧持念―悲しい茸とうれしい茸―

 むかし、楢下の宿(しゅく)さ、持念ていう小僧さんがいて、楢下の部落では、むかし、春と称して、「大水沢山、今年開いた」て言うど、その大水沢山さ行って、五棚あるいは八棚、何間伐ってもええ、ただその代り売ってはなんね、焚く分には、何間伐ってもええ、と、そして大体五間あるいは七間て、出るほど分けて、「おれは大きいどこ欲しい」「おれは大きくなくったてええ」て言うわけで、みんな分け山して、木伐った。ところが昔なもんだから、楢の元の方なの割っさけね奴は、山さ置いてきた。重たくて背負うに背負わんね。割るに割らんね。ところが割りかけて山さ傷つけて置いっだのさ、何時となしに、ある春先、山さ行ってみたらば、もさもさ椎茸出っだ。ほうしたれば、
「ああ、椎茸だ、椎茸だ」
 て、村中の人ぁみな椎茸とりはじめた。ほうしたれば、ほの持念さんが言うた。
「何だべ、お前だ。春先から、ほだな茸食うんだらば、一年中悲しい想いしてんなねぜ」
「なして」
「かいつぁ、何て言う茸だか知っていたか」
「知ってだ。こいつぁ、椎茸だ」
「ほりゃ、ほだごどばりお前だいうて、これは椎茸の上さ、また字(ふっ)()いているなだ。悲しい茸て言うなだ。悲しい茸なの食うんだら一年中悲しい想いしてんなねぜはぁ。春先からほだな食ってだら…」
「ほんでは駄目だ」
 て言うたけぁ、採り始めたり何かえしった人、小あらかた採ったな、そこへ、ボェッ、ボェッと()ち投げた。そして山分けして帰って来た。
 次の日、持念さんが大きなハケゴ背負って行って、茸集めしった、みんな投げたな。したけぁ、
「ああ、見つけたぞ、見つけだぞ、持念。この野郎、おえねぇ野郎だ。何だ人さ悲しい茸だなて言うて、自分が今日拾って行って食うつもりだべな」
「いや、今日は持って行って御馳走ならんなねっだな」
「なしてだ。お前だ、悲しい茸みなひっくり返したべな、採ってかっちゃえしたべ」
()っちゃえしたっだな」
「悲しい茸、ひっくり返してしまったら、うれしい茸になるんだ。今日からはこの茸はうれしい茸だ。この茸食えば一年中うれしい、うれしいて言う、うれしい日が続くなだぜ、ええか、分ったか」
「はぁ…」
 て、みんな魂消て、ほの持念さんの頓智のええなには、感服したけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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