１４　百足の医者迎え

　むかしむかし、ほの、昆虫の世界、いわゆる虫の世界があった。
　ところがどういうわけか、青虫、いきなり腹いたくなった。
「痛たたた…、何とも腹いたい」
　ぐっと丸っこくなった。頭左右さ振って、いたい、いたい、いたいてドダバダ苦しんでいる。他の者は見るに見かねて、
「ほんでは医者呼ばらんなね、医者はほこらに居ない。江戸まで行かなくては医者は居ね。困ったもんだ。誰かほんでは医者さ走ってもらわんなねっだな」
「ほんでは蜘蛛さん、お前早いから、蜘蛛の子みたいだて言うから」
「いや、おれは短距離は早いげんども、長距離はわかんね。川あったりすっど、飛び越えたりするわけには、行かね。流さっでしまうど、ほれまでだ」
　誰それさん、ええがんべ、彼ええがんべて言うたげんど、みんな不合格。
「ほんでは、川さ入っても流さんね、足も十本、二十本流さっでも、こっちの方さ五・六十本足残ってる百足さんさ頼んだらええがんべ。百足さんさ頼め」
　そういうわけで、百足さんさ頼みに行った。
「いや、青虫が腹痛ではやむを得まい。んではおれは大いそぎで出掛っから」
　ていう返事もらって走って来た。なんぼ待ってでも来ね。昼間になったはぁ。やがて、来てもええがんべはぁ、まだ来ね、片脇では「いたい、いたい」て汗出してる。昼間なても来ね。何しったべ。
　夕方になって、
「今度、来る頃だべなぁ」
　て、しびれ切らして、皆して百足さんの家さ行ったれば、まだ出掛けねでいだっけ。
「家のワラジ二十五足、村中集めて二十五足、五十足そろったばっかりで、後の五十足、何とも寄せらんねくて、ワラジ作り始めっだ。江戸まで行くには足減って何とも仕様ないから、ワラジ履かねど行かんね」
　ほんで何とも仕様ないくて、今、藁打って泥棒おさえて縄なうていうことあっけんども、藁打って、今ワラジ作って履いて行ぐなて、まず大変不都合なことだげんと、何とも仕様なくて、そういうわけでワラジ作った。ほしてまだ出かけねんだげど。んだから足いっぱいあっても、ええ時と悪れ時あるんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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