10 山形の泥棒

 山形在に、非常に(たけ)っだて言うか、盗みの上手な人が、たまたま仙台さ行って泥棒してくる。
 ところが、ほれ、仙台で泥棒して、山形まで― 仙台から山形までには相当な距離だから、相当時間もかかる― 仙台と山形、まず数時間で行ったり来たりしったど。これがまず司直の手から逃れる一つの手段だったって。何時頃仙台で盗まっだ。何日の何時頃には山形在にいてはぁ、お茶のみしったったはぁと。んだど警察で来て、
「本当だったか」
 て言うど、
「本当だった。誰それ、朝げお茶飲み来たけぁ、昨夜の十二時に盗まっで、朝げこっちゃ来てるわけない。んではお前がやったんでない」
 そのためには、前さ当てた笠落ちねほど速く走ったもんだど。それぐらいに早く走ってもやっぱり、押えられっ時ある。危なくなった時ある。その時の準備として、途中さ隠れ家二・三か所作っておっかった。その隠れ家というものは、たとえば部落さ来っど、
「ああ、一服御馳走してけらっしゃい」
 て、財布二つ持って、二三十両の金落としたふりして、
「御馳走さまでした」
 て行く。ところが、
「お客さん、紙入れ忘せだ、大事なもの忘せた」
 て、追っかけて来る家だら、絶対かくまって()ね。ほいつ、その三十両を知しゃねふりしてネコババする家は、
「いや、実はこういうわけで、何とか頼む」
 て言えば、
「さぁさ、倉さ」
 て、かくして()る家だって。
 ところが、金のあるどこ匂いすっかて言うど匂いなのするもんでないげんども、まず、勘で大体わかる。それはどういうことであるかて言うど、大体一番奥さ金を置いたもんだ。そして夜目にすかしてみっど、()(あし)の一番減っているどこ辿って行ってみっど、必ず銭の置場であった。そして戸開けっどこには、ほれ、そこさ、水ふくんで行って音しないように開ける。あるいは小便を利用するとか、そういう風にして、すっすっと入って()っど。んだげんども、その大泥棒も最後には、まず年貢の納め時きて、押えらっだな何だかて言うど、仙台に行って陸軍の大演習、そんどきの経理室ねらった。はいるには入り込んだが、ところが軍隊の警備て言うな、きびしくて、そして金持って逃げっどき、歩哨につかまって、ブタ箱さ御用になったわけだ。
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