7 へらへら話

 むかしあったけど。
 あるところに、じんつぁとばんちゃいで、じんつぁが早く逝くなって、ばんちゃ一人ばり暮してで、そして
「今日はお彼岸だ。団子搗いて一つお仏さまさ上げんべ」
 と思って、団子搗いて、ほして団子まるべて、はいつをお椀さ盛って上げんべと思ったら、その団子一つ一番上さあげっだな、トンと板の間さ落っだ。平らなどこ、コロコロ、コロコロ転げて、
「不思議なもんだな」
 と思って、追っかけて行った。ほしたらトンと庭さ落っだ。庭も平らだげんど、コロコロ、コロコロ転げる。
「どさ行くべ」
 と思ったら、ちっちゃこい孔さちょろっと落っで行った。
「あら、こだなどさ落っで行った」と思ったら、自分もその孔の中さちょろちょろと、いつのこまえ(間)入って行った。暗いと思ったら、ほでもなくてはぁ、明るくて広いどこさ出てしまった。して、どさ行ったか、団子、わからね。
「団子どの、団子どの、どさ行ったべ」
 て聞いてみた。ほんでも分んね。したればと、向うの方さお堂あって、ほさ地蔵さま立ってござった。
「地蔵さま、地蔵さま、団子こっちゃ転げて来ねがったべか」
「ばんちゃ、ばんちゃ、おれはぁ、御馳走なったはぁ」
「うわぁ、地蔵さま、何だて不調法した。ほの団子なの、土まみれの団子なの、こりゃ、お上げして……」
「いやいや、そうでなくて、おれ(ほう)であやまらんなね」
 ほだえしてるうち、何だかドシンドシンて人の足音して来た。ばんちゃ何だべと思ったら、地蔵さま、
「鬼共来た、鬼。おれのうしろさ隠れろ」
「恐かないちゃ、恐かないちゃ、おになの」
「ええ、大丈夫だ。おれのうしろさ隠れろ」
 ほして地蔵さまの後ろさ隠っだげんど、着物の裾見たど。ほしたらば鬼来たけ。
「ん、人くさい。何だこら、人くさい。人来たんねが、地蔵さま」
「来た」
「こっちだ、こっちだ、こっち居た。ばんちゃだ」
 ばんちゃ恐かなくて、ぶるぶる隠っでだ。したらば地蔵さま、
「ええ、ええ、ばんちゃ、ほだえふるえっことない」
「んだげんども、地蔵さま、おら恐っかなくてなんねぇず」
 したれば、その鬼どもだ、
「地蔵さま、地蔵さま、お願いおる。家で頼んでいたばんちゃ、最近ちょえっと用達し行って来るなんて行って留守で、御飯炊き一人居ねくて困っていた。このばんちゃ貸して呉らんねが」
「いじめねか」
「いじめたりなのしね、大事にするから、貸してけらっしゃい」
「ほうか」
 て言うわけで、ばんちゃ、その鬼に借りらっで行ったわけだ。ほうすっど小舟さのって鬼が島さ行った。そうして鬼が島さ行ったれば、
「こういうわけで、明日からお前手伝ってもらうんだげんど、とりあえず、まず明日の御飯炊いで呉ろ」
 て、ヘラ一本渡した。米一粒渡して、
「ほいつで三百人分、御飯炊いでけろ」
 ばんちゃ、ぶっ魂消た。
「いじめねなて、一粒で三百人の御飯炊いて呉ろなて、おればいじめる」
 こう思って、
「なぜすっどええのだ」
 て言うたらば、
「この米一粒入っで、このぐらい大きい釜さ水、みんなして汲んでけっから、ほいつお前炊いでけっどええなだ」
「ほして炊いて、煮立つ湯になったら、このヘラでかましてけろ。このヘラは万倍ていうヘラだ。かましているうちに一粒が何万倍てなんなだ。一振り万倍だから、十ぺんすっど、十万倍になるヘラだ」
 そいつ聞いて、ばんちゃ、ほれ、御飯炊いて、ほして煮立つ頃、そのヘラでかましてみたれば、魂消た。ムラムラ、ムラムラ、その一粒の米ふえてきて、ほしてたちまちすばらしい御飯できた。
「はぁ、これは大したもんだ」
 次の日も米一粒渡して、こっちの方さは煮豆して()ろと、豆一粒よこした。して煮れば、これもむくむくふえて行って、すばらしく煮豆できる。すばらしいヘラなもんだていうわけで、一週間ばかり、ほこさ勤めだげんど、(なん)たて家さ行きたくて仕様ない。家思い出してはぁ、ほして、
「暇けで()ろ」ったて暇()んまいと、逃げるに限るどて、そのヘラ、ふところさ入っだまんま、そおっと自分が来たどころさ行ってみたれば、小舟つながっていだっけ。
「よし、この小舟で」
 て言うわけで、その小舟さのって、そのヘラで漕いだ。ほうしたら、スウスウとそのヘラの偉力で、たちまち地蔵さまのいたところの陸地さ鬼が島から来てしまった。ところがはいつ気付いた。鬼どもは何十人もして追いかけて来た。んだげんど、舟ないから漕がんね。ほうしたれば、ほの鬼の親方、
「この水飲んでしまえ」
 ほして、何十人の鬼は四つんばいになって、川の水飲みはじめた。何だか川の水こころ細くなった。だんだえ減って行った。ほうすっどばんちゃ考えた。
「かいつぁ、笑うど飲まれんまい、笑わせて一つ……」
 て言うわけで、ヘラで尻叩いたりして、口ほっちゃ曲げでみたりして踊りおどった。
「ばんちゃ、笑わせる気だって、おらだ笑わねぞ」
 なて、最初鬼はがんばっていたげんど、何とこの身振り面白くて笑わねでいらんねくて、一人の鬼は吹き出した。ワァーッて吹き出したれば、他の鬼もみな移って、みな吐き出したれば、元の川になって、満々となり、流っで行ってしまった。ほして鬼はとうとう追って来らんねぐなって、地蔵さまんどこさ来た。
「地蔵さま、地蔵さま、まず、こういうわけで家さ行ぎだくて逃げて来たんだ。んだげんど、このヘラ持って来らってしまったずはぁ」
「いやいや、ええ。ほいつぁ、おれ保障してお前さ、ヘラ呉れっからはぁ、そのヘラはお前の家さ行くど、何でも万倍になるヘラだ。んだげんども、決して世の中さ行って、ヘラヘラになぞらって、ヘラヘラ言うもんでないぞ。ええか。地蔵さま、土まびれ団子食ったなんて、決して言うてなんねぇぞ」
 て言うたけぁ、はっと気付いてみたれば、自分の庭さ尻ついて、ヘラだけはぁちゃんとふところにあった。ほのヘラさえあっど、米一粒入れば食い切らんねほどの御飯炊けっし、何でもその通り、金一文あれば、そのヘラでさすっているうちに万倍とふえる。して楽々と暮したけど。これがヘラヘラ話のどんぴんからりん、すっからりん。
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