4 (だん)だ屁

 むかしむかし、あるところに若者がいて、その若者が寝ててたれる屁が、誰聞いても、「誰だ、誰だ」て聞える。ほして夜中に、屁「誰だ、誰だ」てたれるもんだから、その部落ではあんまり歓迎さんねがったど。家の人はもちろん、その代りにくさくはないんだげんども、音だけは激しい。「誰だ、誰だ」てたれる。
 それさ目つけた町の長者さま、
「よし、ほんじゃ、そいつは確かに貴重なごんだ、おら家では倉番に頼む」
 ほして、味噌倉、米倉、宝倉て、倉五つばり座敷だっていろいろあるんだげんども、ほこさ頼むようにした。
「昼間、ほだえ稼がんたてええから、夜、おら家の倉さ寝ててもらっただけでええ」
 すばらしい旦那衆で、財宝もいっぱいあったんだど。ところが江戸に怪盗団がいだんだけど。ならず者の寄せ集めが怪盗団。それがそこらに瀬踏みに来た。
 ここらにどこに金あっかの、物あっかのて聞いたらば、すばらしい旦那衆いて、そこに倉五つもあって、財宝はばっちりある。
「んだらば、はいつ盗まねくてなんねぇ」
 て言うたらば、ほこにはものすごい屁のたれる門番がいて、
「ん、屁なんて、何でもない、この門番、寝むったうちに、ゆうゆうと仕事する」
 て、こういう計画立てた。ところが、「誰だ、誰だ」て音すっどうまくないから、はいつ一応ふさがねくてはなんねぇ。
「んじゃ、誰か行かなくてなんねぇ」
「よし、一番若いの、行って来い」
 て、ほして、春先の四月二十一日、お明神さまのお祭りの日、村中、みんな祝い酒飲んだ。ほしてその若者は茂助て名付ったんだけども、「誰だ、誰だ」て屁たれるもんだから、「ダンダン兵衛」て言うてた。そのダンダン兵衛もはぁ、酒飲んではぁ、自分の所さ行ってはぁ、三分間おきぐらい「誰だ、誰だ」てたれる。ところが、ほの若者が百姓出なもんだったから、
「よし、んだらば屁の孔ぽこさ口栓してしまえば、ほのダンダン屁が出ねべ」
 と、こういうわけで考えた。て、百姓なもんだから、ほの()み大根を入れるに限る。そうしてそおっと忍び込んで行って見たれば、ダンダン兵衛殿は、何の気なしに眠っていた。そこさ行っておもむろに醤油さ漬けっだような褌をはずして()で、屁の孔さ、凍み大根をキリッと栓して呉()だ。今まで、ダンダ、ダンダと音しったの、ばったり絶えた。
「よしよし、これからだ」
 というわけで、怪盗団が行ったところが、なかなか錠前がはずんね。南京錠だ。引っぱっても()っぱってもはずんね。ほだえしてカチャカチャしているうちに、いままで「スウスウ、ダンダン」て出っだ屁だ、いきなり栓さっだ。その凍み大根。ところが腹の中の水分吸収して、ほの大根が大きくなったもんだから、絶対ガスもれねぐなってしまった。ほして腹の中じゅうガスが充満してはぁ、登り降りして歩った。ググググー、ググググー。
 ほうすっどこんど、ダンダン兵衛どのは、何だか切なくて仕様ない。二・三回寝返りしてるうちに、その凍み大根、ぶっぱじげだところぁ、大変なもんだ。
「誰だ」の連発。「誰だ、誰だ」
 ほうすっど自分が警備に頼まっでいたていう考えもあるもんだから、
「泥棒、泥棒」
 て、ダンダン兵衛は大きい声立てた。そうすっど「それ!」ていうわけで、お抱えのその人足がみな集まって、そして怪盗団ば追払ってやって、何も盗らんねがった。その話はお殿さまに聞えて、五十石取りの目明しになったけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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