3 ホラ吹き

 むかしむかし、キジ()めたり、兎()めたり、ものすごい足の早い若者がおった。韋駄天走りて言うたように、ものすごい速さで走る。走るて言うよりも跳ねるて言う方が適切なようだった。誰言うとなく、
「あの人は毎日ノミのキンタマ煎じて呑んでいるんだ。んだから、ノミのように足早く跳ねるんだ」
「ははぁ、なるほどなぁ、んだがもしんない。しからばノミのキンタマなて、なぜして、どうする?」
「いや、ええ方法ある。これは上山に万屋善兵衛ていう家ある。その万屋という称号は、あれないこれないて言うど、金看板取り上げるという風な家だど」
 て言うわけで、若者がみな行って、
「これこれ、万屋、お宅にはノミのキンタマあるか」
 困ってしまった。ないて言えば金看板持って行かれる。あるて言えば売ってけろて言われる。困った。ところがここに非常に頓智のええ若者がいて、
「はい、ノミのキンタマございます。ノミのキンタマ常用すれば、非常に足早くなって、やっぱり狐・狸のたぐいは、ただ手づかみするいそうだ。そういう話聞いっだ。んで、現在はちょっと品切れだから、明日お出なっていただかんねべか」
「……」
「いかほどでございますか」
「ええ、たんといらね。二升五合ぐらいもらうか」
「そうですか、結構でございます」
「んじゃ、明日の午後から八ッ(どき)来んぞ、ええか」
「はい、明日ござってけらっしゃい」
 ほして、そのいたずらざかりの若い者は、次の日、ノミのキンタマ二升五合買いに行った。
「今日は、昨日(きんな)頼んで行ったノミのキンタマもらいに来たげんど、なんた」
 ほうしたれば、若者出てきたけぁ、
「入れもの持ってきたべか」
「入れものなて、お宅では袋渡さねのか、袋さ入っで売らねのか」
「いや、このノミのキンタマだけでは、とんなもんで、ただ持って行ぐど、途中で爆発してはぁ、何の効果なくなんのよはぁすぁ」
「んじゃ、何持って来っどええなだべ」
「丁度、二升五合準備しったから、その二升五合入るように、シラミの皮準備してもらわんなね。ほのノミのキンタマとシラミの皮ざぁ、きわめて相性ええくて、ほの中さ入っで行ぐど、すばらしい偉力発揮すっけんども、ほでないど途中でパンクすっどはぁ、何の値打ちもないもんだからって、シラミの皮、どうか持ってござってけらっしゃい」
 ほういう風に言わっで、いたずらざかりの若い者だ、シラミの皮二升五合ぶり、何ともいたし方なくて、黙ってひき下がって来たけどはぁ。どんぴんからりん、すっからりん。
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