狐千匹


          八百の嘘を上手に並べても
             まこと一つにかなわざりけり  一休和尚

「今日、オレぁ晩方、用がひけっとぎ、山まで来たら、狐千匹ばかりいて、いや、 さぶしくて仕様 しよ なかった」て云うたど。そしたらそれを聞いた友達ぁ、
「なにつかして、千匹の狐なて、とんでもない話だ。狐千匹なて、どこにもいる もんでない」
「いや、百匹はいだったな」
「百匹の狐なているもんでない」
「いや十匹はいだったな」
「十匹なて、狐十匹なて、いるもんでない」なて云うたら、
「とにかく、一匹はいだったべ」
「いや、あそこの山さ狐いるなて聞いたことない。お前は何か見違えて来たのん ねが」
「とにかく、ガサェッーてだけは云うたぜ」
「にさ、さぶしがりだから、そう感じだなで、狐などいるもんでねえ」て云うど、
とうとうそいつは嘘になってしまったど。
 だから、とんでもないことは云うもんでないど。
(貝生 工藤六兵衛)
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