夢と餅むかしあったど。村に三人兄弟いだったど。 一番上のアンニャは一平、二番子は二太郎、三番目は三之助と付 (つ) かったのだっ たど。何も芸はなくて、仕事すんのもやんだくていだったど。 お正月の二日に荒砥の清水屋さ行ったところが、持 (たが) かんねような大きな餅も らったど。たった一つばっかりなもんだから、分けて食うようもないんだし、晩 方頃だったし、お深山 (しんざん) に奴 (やっこ) 宿 (やど) があっから、そこさ泊ったど。そして、 「今夜、初夢の日だから、一番といい夢みた人ぁ、この餅食うことと決めたらえ えがんべ」て三人で語り合って決めたど。三人が早く眠 (ねぶ) って、早くええ夢見て、 餅食ってやんべどて、てんでに寝 (ね) でしまった。一番兄も二番兄もぐうぐう眠って、 三番目は、 「とにかく夢など見られっか、見らんねが分ったもんでねぇから、とにかく餅ぁ ちゃんと食って、始末して、それから眠んべ」て思って、みんな眠るばっかり待っ てだど。みんなぐうぐうてイビキかいでるうちに、ありだけ餅食ってしまったど。 いや、腹くっちい。ある刻限が来て一番兄は二番、三番子を起して、 「オレぁ日本一ええ夢見た。冨士山の嶺さ上って、茄子もぎしたどこぁ、鷹がと んで来て、オレの襟頸くわえで、オレどこみな鷹ぁ食ってしまった夢で、一冨士、 二鷹、三茄子びて云うぁ、オレぁ日本一ええ夢見たぞ」て云うたど。 二番子の番になって、 「オレぁ夢はそれよりええ、今日一番ええ夢みた人は餅食うことて云うから、オ レだな。荒砥の清水屋さ行ったところが、こげな大きな餅をもらって、餅食 (く) え餅 食えて云わっで、いいや、腹くっちいにも、うんと我慢して、目覚めるまで腹くっ ちいがった。オレの夢は兄のよりええ夢だ」て云うたど。 三番子の番になって、 「いや、オレは一時、目覚ました。それはどういうわけかて云うど、兄貴は冨士 山の嶺さ上って、鷹にさらわっで、食わっでしまって死んでしまったし、二番兄 は清水屋から大餅もらって腹ほうず食っているもんだから、早く起きて、お前、 たった一つ貰った餅食った方がええて云う神様の夢で、起きて食ってしまったと ころだ」て云うたど。 賢いのにはかなわねていう話だったど。トービント。 |
(貝生 工藤六兵衛) |
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