寝太郎(一)


 むかし、長者の家の隣さ、貧乏な家あったど。
「隣の家では朝早くから起きて働くから、なんぼでも旦那衆になる。おらえの家 んなは困ったもんだ、一年中寝てばりいて、寝坊してるもんだから、困った息子 なもんだ」て、大 (おほ) こぼししったど。そしたら、
「オレぁ寝ていんなも、ただ寝てんなでねえ、勘定あっから寝てんなだ」
「寝てて勘定なて云うても分ったもんでない。稼ぐより他にないんだ」て親父に 叱言いわっだど。
「んだて、勘定あっこで。考えていたなだ」「なんぼ考えっだて、稼ぐより他ない んだ」ていだそうだ。
「んじゃ、オレどさ鳩一匹買って来てけろ」そして「おっか、提灯とローソク買っ て来てけろ」て買わせで、隣の長者さまの杉の木の尻 しっ ぽえさ上って、大抵ええこ ろになったどて、提灯さ灯つけて、「長者、長者」て起したど。長者どこに丁度え えころな娘いだったど。
「長者、長者起きろ、八幡太郎が来たから起きて、おがみ申せ」
 そうすっど、長者魂消て、何なもんだどて出てみっど、杉の木の上さ灯 (あかし) 点いて いたど。
「八幡太郎はオレだど。隣の寝坊を、長者の娘の聟にしないど、今にも亡びてし まうぞ」て、怒鳴ったど。旦那さまは、
「確かに、隣の聟もらう」て、神さまさお礼云って、
「ほんじゃ、帰っておくやい」て云うたば、鳩の足さ提灯つけて、鳩飛ばしてやっ たど。そしてとうどう長者の聟になったけど。トービント。
(西高玉 佐藤まつ)
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