花咲じじいむかし、じじとばばいたっけど。そして犬を飼って、大切にして育 (おがし) ていたっけ どな。 隣に欲のふかいばさまがいだったど。そうしていっど、気持のええじんちゃ、 ばんさはクイゴコをめんごくて、うまいもの食せて育 (そだ) でっだど。 あるときクイゴコが、 「畑さ、あえべ」て、じんちゃを引っぱって行ったど。畑の隅さ行って、 「ここ掘れ、ワンワン。ここ掘れ、ワンワン」て教えたど。ここ掘れてだな、て、 このじんちゃ一生懸命掘ったど。そしたれば、金がざくざく出て来たど。じんちゃ の前さ、ほらぁ、大判小判がざっくらざっくらと出はったべし、ばんさの前さ、 ざくりざくりと金が出はったど。その金を持 (たが) っていって、よかったどて大事にし ていたところが、隣の欲ふかばさまが、 「そのクイゴコ、貸してやれ」 「貸されない」 「貸されないざない、貸してやれ」て借りていって、犬ぁ行くても言 (や) ねな、縛っ て無理に連 (しぇ) で行ったんだど。そうすっど畑の隅掘ってみたど。出るものにゃ、セ トカケだとかガラスカケだとか汚いもの、ざくもく出て来て今度ぁ怒って ごしゃえで はぁ、 クイゴコ殺してしまったとは。いつか経っても寄越さねから、そのクイゴコ取り に行ったど。 そうしたどこぁ、 「はっけなもの、なんにも出ねでガラスカケやセトカケなどばり、がらりがらり 出て来た。えらしくないから、ぶっ殺して埋めて来た。そこさ松の木一本植えて 来たから、行ってみんだ」て教えたど。そうすっど、根性..のええじんちゃとばん さ、そこを辿って「むごさいこと」て行ったど。 ところが松の木が、たんと大きく育 (おが) っていたど。その松の木を切ってきて、ス ルス拵えで米ひきしたど。 松の木の小ズルスは上かんだ上かんだ コロリン コロリン とひいたもんだ。そうすっど、じんちゃとばんさの前さ、ざくりざくりと大判 小判がまた出たど。そこさ欲たかりはまた来て、 「オレさ、ほいつ貸してやれ」 「お前さ貸さんね、貸すずど、悪るい (われ) ごどすっから…」 そうすっど、 「何してこっちの家で、ほんがえ金貯った」て聞いたれば、 「お前にクイゴコ殺さっで、植えてけっじゃ松の木が育 (おが) ってたから、このスルス を拵えて引いたら、こげな金も落ちたなだ」 「ああ、ほんじゃこいつ貸せ」て、隣の欲たかりぁまた借っで行ったど。そして 引いてみっど、ないでもロクなものしか出てこね。牛の糞や馬の糞などばり、び たりびたりとじんちゃとばんさどこさ落っこんだど。すると怒って (ごっしゃえで) 、こげなもの ぶつ割って焚いた方がええて、焚いて便所の陰の方さその灰をとって抛げだんだ ど。 そしてまた、寄越さねから、催促に行ったどこぁ、そのばんさぁ、 「こげなもの、だっでえばりで、牛の糞や馬の糞などばり、びたかたと出っから、はづげなものぶち割って焚いてしまった」て云わっだど。 「なえでも、そういうことばっかりされで困る。やっぱり貸さねどええかった」 て云うて、取り返しはつかねんだし、 「その灰でもええから、灰けておくやい」て、その灰もらって来たど。 灰もらって来たどころぁ、殿様がこの道をお通りだ。だからその灰を持 (たが) って行っ て、木の上さあがって、殿様の来るのを待っていだど。そうしたどこぁ、殿様ご ざったもんだから、来る先に灰を持 (たが) って木の上さあがって、 アヤはチュウチュウ コガネ ザラザラ チチンポン パラリン ととなえて、灰をパァッと振ったもんだど。その灰のかかったところぁ、桜の 花が見事に咲いたど。そうすっど、殿様からごほうびに衣裳よ何よといっぱい授 けらっで、ツヅミにもらって、ばんさと喜んだど。そこんどこさまたその欲たか り来たど。 「あんだ何してこんがえ貰って来た」て云うたどこぁ、 「お前に貸したスルス割って焚いたから、その灰を貰ってって、花咲かせたどこぁ、 殿様からえらいごほうび貰い申したんだ」て云うたら、 「ほんじゃらば、おらえのじんちゃも…」て、まだやったど。 欲たかりばばぁは、いま来っか、いま帰っかと待っていたど。 「来ねざない、来ねざない、おらえのじんちゃも赤い衣裳もらって来んべから…」 て、ボロ衣裳など皆焼いて待ってたど。 「なんだて来ねもんだ」ていたどころぁ、灰振ったじんちゃの灰ぁ、殿様の口や 目さ入って、 「こんな者、ただかんにんして置かんね、いじめなければなんねえ」て、ひっぱ だがっで、体が血だら真赤な身体 (なり) になってしまったど。 家にいたばんさは今来っか、今来っかて出で見っだどころさ、真っ赤な身体 (なり) し て来たから、 「いや、おらえのじさま、赤い衣裳で来た」ていたどころが、衣裳でなくて、血 だら真赤な体だったど。んだから欲の深いことは決してするもんでないぞな。トー ビント。 |
(西高玉 佐藤まつ) |
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