与三むかし山形のようなどこさ、与三は魚買いに毎日行 (い) んかったど。そして峠(狐越)あ たりさ来 (く) っじど、化物ぁいて、魚ぺろっと食われっかったど。そんどきも化物が出てきて、 「与三、与三、カラウオ一本けろ」て云うので、おっかなくなった与三は、カラ ウオ一本くれてやったど。そしたらそいつをむしゃむしゃ食って、また、 「与三、カラウオ一本けろ」 また呉れたど。そしてとうとうみな化物から、カラウオ食っでしまったど。そ して与三は恐っかなくて、家さ帰って来て、梁の上さ登って隠っでいだったけど。そうすっど、化物は家さ入って来て、 「ああ、今日はええ日だった。そんでは甘酒でも飲むか」て、甘酒温 (あた) めていたど。 与三は紙をくるくるて巻いて、化物の知らぬ間に、みな啜 (すす) てしまったど。そうすっ ど化物は、 「甘酒もなくなったから、餅でも焼いて食うべ」て、餅あぶったど。 そのうちに背中あぶりしていて、眠ってしまったど。そのすきに、与三は餅を 食ってしまったど。 化物は起きてみて、餅がないので、 「こりゃ、火の神様食ったんだか、ワタシの神様食ったんだか、なくなったな」 そしていっど、 「今日は腹もいっぱいになったし、木の唐戸 (からど) さ入って寝たらいいんだか、石の唐 戸さ入って寝たらいいんだか、今日は寒いから、木の唐戸さ入って寝んべ」て、 木の唐戸さ入って寝たど。 与三は、そっと木の唐戸さ近づいて、キリで穴コあけたど。 「こりゃ、キリキリキリキリて音立てる。キリギリ虫だか、なえだか、今夜は長 者さまのキリギリ虫ぁ鳴っこど」て寝っだど。与三はがらがらお湯煮たてて、そ の穴コからお湯入 (い) っで、化物退治したど。トービント。 |
(中山 山川嘉之助) |
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