オンサローの化物

 むかしあったどな。
 あるところに化物いだったど。夜になると、かまわず「オンサロー・オンサロー」 て泣っかったど。ここだど、お稲荷さまみたいなどごでよ。そこで毎晩泣くんだっ たど。子どもは皆おっかながって、縮 (ちぢ) ごまって、家の人も、ぺろっと戸を閉 (た) てて、
寝っだもんだど。んだげんども一番小っちゃこい子どもが、
「化物なて、いねえでないか」て、荒 (あら) 気 (げ) 吹いて、
「オレぁ化物退治に行ってくる」て云うので、
「お前 (ニシャ) 、化物退治なて行くど、化物に食われんだから、ほげなごどしないほうえ えんだ」て家 (え) の人ぁうんと云うたげんども、聞かねで、
「オレぁ必ず化物退治に行ってくる」て云うて、行ったどはぁ。そして夜になっ たればまた、「オンサロー・オンサロー」て泣くもんだから、こんどこそ、て、行っ たど。お稲荷さまさ行ったれば、大きな穴があったど。その穴から「オンサロー・ オンサロー」て声が聞えだど。
「そんがえ、オブサっだいごんだら、オレの背中さオブサレ」て云うたど。そし たら冷 (つみ) たいなりで、ピタッーとおぶさったずも。んだげんどもあらいもんだから、
こんどは化物みたいなのを、背負ってさっさと来たずも、そうして家の人は化物 に食わっだと思って心配していたどさ、「化物おぶって来たから、見ろ」て、座敷 の真中さ、ドガンて落したずも。そしたれば、ザラザラザラ、まるで家のうち中、
金の音みたいな音立てたずま。家の人は、
「それぁ化物出た!」て云うげんど、灯りつけて行ってみたずま。そしたれば、
化物は瓶 (かめ) さ入った金 (かね) と銭 (ぜに) で、そいつが世の中さ出だくて、いつ頃だか穴の中さ埋 めらっでいたなが、「オンサロー・オンサロー」て誰かおぶってくれないか、て、毎晩夜になっど泣くなだったど。その家は旦那衆になったど。
 んだから世の中には化物などいなくて、さびしいなてないもんだ。トービント。
(貝生 工藤勝助)
>>蛇むこむかし 目次へ