むじな長者むかし、萩野さ、長者原ていうところあったど。その長者原には長者がいだっ たど。なして長者になったがて云うど、その長者は元は炭焼だったど。畑谷の大沼の傍さ行って、その炭焼ぁ炭焼しったど。あるどき、ある人から、 「あんだ、赤湯の沼さ行って、親戚あっから、こいつ渡してけろ」て書面たのまっ だど。 「あまえ、ええ」て、そいつ承知して書面もって来たが、家さ帰って書面あけて 見たれば、 「この男、炭焼で、オレの沼さ来て、じゃあじゃあ、炭屑なげる、だっでくて困っ から、こいつを何とか始末してけろ」ていう文面だったど。そいづを見たもんだ から、ごしゃっぱらげで、書面を書き換えだど。 「この男ぁ炭焼で、火をじゃあじゃあ沼になげて困っから、いい暮しがされるよ うにしてけろ」 そいづを持って、赤湯の白竜湖どさ行ったら、人がいて、その書面を見て、 「ほたか」て、金の引臼をけてよこしたど。 その引臼を引くど、一合が二合に、二合が四合にふえて食って困んねぐなったど。 長者になった男は長者原さ家を構えで、嫁をもらったど。ところがその嫁は人 出入が嫌いで段々すたって来たげんど、一人娘がめんごくて仕方なかったど。 村さ、あるとき、どっからか若い男が来て、娘はその男さ惚れて、その男さ金 の引臼けてやてしまったど。そいづを聞いた村の衆が、その男はむじなだて分っ て、むじな御所さ、その金の引臼掘りに行くど、萩野の村が火事だて云うので、もどってみっど、どこも燃えていなかったど。そこでまた掘りに行くど、まだ火 事だって云うので、帰ってみっど、やっぱり火事でなかったど。こいつはむじな から騙さっだて、 「今度こそ、騙さんね」て、金の臼を掘りに行ったら、また火事だて云うげんど も、誰も帰んねがったど。そしたら本当の火事で、萩野村中焼けてしまったど。 |
(中山 山川嘉之助) |
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