蛇むこむかし

 むかし、村さ三人の娘もった親父あったど。
 田に水掛んねくて困っていだら、蛇がやって来て、
「ほんじゃら、オレぁ水掛けてけっから、その代り娘の一人を嫁に呉 (け) ろ、ええが」
 親父ぁ困って家さ帰って寝っだど。昼になって、一番目の娘が、
「なして飯 (まま) 食ねのや」
「こういう訳で、飯食うどこでない。お前嫁に行ってけっか」て云うたら、一番 目の娘は、
「蛇のオカタなど、とんでもない」て答えたど。それから二番目の娘が来たので、 また頼んでみたら、やっぱり一番目の娘と同じだったど。
 三番目の娘が来たので、親父は、
「お前に聞いてもらわんねごんだら、オレぁお飯 (まま) 食 (か) ね」て云って寝っだど。そし たら何日も食ねで寝っだど。三番目の娘は孝行娘だったほでに、
「ほんじゃ、条件ある」て云うて、長持一つさ、ゴマヤキメシ千 (せん) にぎって、そい つさ針三本ずつ入ってけろ、もう一つの長持さ、フクベン千 (せん) 入っでけろ、て云う たど。
 そいつを持って、打越の沼まで持って、オレどこ送って行ってけろ、て云うた ど。そして蛇さ行き会ったもんだから、蛇はうれしくなって挨拶したど。娘は、
「そんでは、お前も腹減ったべがら、ヤキメシを皆食って、…」て云うど。
「オレも娘としては、村一番て云わっだんだから、お前だって技量はあんべと思 うし、フクベン、オレが沼さ千浮かすから、ありだけ沈めて見せろ」て蛇さ云っ たど。
 そしたれば、針三千本入ったヤキメシを食った体で、フクベンを沈めっど思っ たので、フクベンはポコポコ浮 (う) きで、そっちすっどこっち浮き、こっちすっどそっち浮き、とうとう疲れ切って死んでしまったど。
 そうして、裏 (うしろ) 千刈、前千刈の田ぁみな三番目の娘がもらったど。トービント。
(貝生 工藤六兵衛)
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