97 鱒女房

 むかしむかし、ある百姓が用達しに行って帰って来んべと思ったれば、餓鬼べら、鱒せめて、バダバダ、バダバダ、大きい鱒、可哀そうだなぁと思ったほの人が、「お前だ、その鱒、おれさ売って()ねが」て言うたど。
「ええっだな、鱒など、せめっどなんぼも居るも、売るっだな。なんぼで買って呉るよ」
 なていうわけで、鱒ば買って、ほの人が大きい川さ、
「ええか、こんどから、あんまり端の方さ来んなよ、取られっからよ」
 なていうわけで、やさしく鱒ばいたわって放してやったんだど。ほだえして二、三日おもったれば、きれいな女尋ねてきて、ほして、
「どうか、おれば置いてけらっしゃい」
 て言う。んだげんど、
「こだな貧乏家で、置いでけろなて()っだって」
 て言うたれば、
「おれ、働っから、なぜかかぜか置いてばりけらっしゃい」
 ほして、ほこさ住みついた。まず稼ぐこと。炊事、洗濯、針仕事、ハタキかけパタパタ掃除、まずこたえらんね。ほして炊事のおつゆ()の味のええことったら、魂消んなね。ほだな味のええな食ったことない。んだげんど、ほの女は言うがったて。
「決して、おれ台所で料理してっどこだけは見ねでけらっしゃいなぁ」
 て言うたて。見ねでけろて()っだな、どうしても見っだいな人情で、ほして夕方、ちょうど炊事やる頃、ほの男は炊事場、こそっとのぞて見た。ほうしたればほの自分が、女だとばり思っていたな、はいつが雑魚の鱒なんだけど。ほして、自分の体から卵しぼって、ほして卵で味ええぐすんなだけど。はいつ見らっだもんだから、
「あらら、みにくいどこ見らっでしまった。んでは、おさらばっだなはぁ」
 て言うたけぁ、
「実は、あなたに助けてもらった、あの鱒だった、一生恩返しすっだくてお前どこさ来たげんど、みにくい姿見らっでから、ほだえいつまでもいらんねっだなはぁ」
 て、ほっからすうっと姿消して居ねぐなったけどはぁ。んだから、見ねで呉ろて()っだどこ、見るもんでないて言うたけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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