95 寝太郎― ぬるくす太郎―むかしむかし、ある村に太郎と名付いった、とってもぬるくすな若衆いだった。んだげんど頭だけはずば抜けてええがった。ほして、ある時、考えだ。ぬるくすで稼がねもんだから銭もない。正月、餅食だいげんど、餅米買う銭もない。一策を案じた。自分の家の虎猫さ紅ガラ塗って、ほして長者どんの家さ忍ばせてやった。猫も腹減っているもんだから、どこここなく経巡って歩って、餅の上歩ったり何かえして、皆餅赤くしたり、齧ったりした。ほうしたけぁ、長者、次の日、はいつ見っだけぁ、 「あららら、餅赤くなった。これは凶だ。うまくないこともある。こだなもの捨ててしまえはぁ」 て、裏さみな捨てだ。はいつ太郎が行って、ゆっくり頂戴してきて、たらふく御馳走なった。ほしてこんど、間もなく、ワナでキジせめてきて、ほしてキジの背中さちょうちん結つけだ。ほしてほのちょうちんさは、〈天照皇大神宮〉と書いた。次の晩、長者の家の杉の木の天辺さのぼって、 「これこれ、長者、長者」 て呼ばった。前に悪れことあったもんだから、何かまた悪れごとあっかと思って、 「はいはい」 「おれは天照皇大神宮だ、ようく見ろ」 「ははぁ、ほうがっす」 ていうわけで手合せながら、頭上げてみたら、天照皇大神宮て書かってだちょうちんが下がってだ。ほうしたけぁ、 「このちょうちんの向う方向に、太郎ていう若衆がいる。その者を聟にとらねど、お前の身上 て言うた。ほして間もなく、ほのキジば、放してやった。キジざぁ右さぐらり左さぐらりなて向かんね、向いた方さ真直ぐ行ぐ癖があって、ほっちこっちさ曲 「はいはい、わかりました。ほんでは太郎殿、家の聟にします」 ていうわけで、次の日、人頼んで太郎どこさ聟もらいに来た。ほして結局、「よしよし、うまく行った」ていうわけで、ほこさ太郎が聟になって、ほれからこんど、あんまりぬるくすすねぐなって、一生懸命稼ぐようになったけど。んだから頭のええ人にはかなわねもんだって、昔ぁ言うたけど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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