90 烏ぼたもち

 むかしむかし、ある百姓の人が、町さ用達しに行くべと思って、降って行ったれば、餓鬼べら、烏の子七匹ばり獲って、足さ木綿糸()つけて飛ばしたり、なにかえしていじめっだけ。かわいそうでなんねから、
「お前だ、ほの烏、おれさ売って呉ねがはぁ、かわいそうだ」
「うん、烏なの、とっどなんぼも巣とってくれっどあっから、売るっだな」
 て、昔の金出して、ほこで烏買ったわけだ。ほして、ほの烏ば、元の巣の母親のところさ置いで来て、町さ用達しに行った。そして帰ってきた。ところが立札立っていだっけ。
「おら家の山の木、三日以内に勘定した者は娘聟にする」
 こういう風な立札立ってだ。
「はぁ、おらの息子、一つ、あれしたいげんども、山大尽て()っだくらいすばらしい山持ちだ。ほこの聟どのになるなて、大したもんだ。んだげんど三日以内になぜして、あだいいっぱいの山の木数えしたらええかわからね。困ったことはじまったなぁ」
 と思って、んだげんども何とかうまい工夫ないべかなぁて、考えながら来たれば、烏の親が降りてきて、
「旦那さま、旦那さま、何心配しった」
「いや、こういうわけだ」て、烏さ語ったれば、
「ほだな簡単だ、お前に助けてもらった子どもと、おれとかかと九匹して、全部数えっから、おれ、お前さ教えっから、はいつ向うさ行って教えらっしゃい」
 て、こういう風に言うた。
「ほんではお願いします」
 て言うたれば、烏はたちまち行って、勘定した。ほして勘定してきて、みなして勘定して来て教えだ。
「杉の木、表の山に七万本。松の木、右の山に五万本。栗の木、左の山に三万本、計十五万本あった」
 こういう風に教えだんだど。ほしてほの烏に勘定してもらったな持って、旦那の家さ行って、
「表の山に杉の木七万本、右の山に松の木五万本。左の山に栗三万本、計十五万本」て言うたら、
「よーし、すばらしいもんだ。んでは早速おらえの家の聟になってけらっしゃい」
 なて、すばらしく仕合せになった。んだげんども烏のおかげだていうわけで、ほこの家では、(つめ)の十五日ていうど、必ず牡丹餅搗いて屋根の上さあげて、ほの烏さ御馳走したもんだけど。んだから今でも晦の十五日ざぁ、烏ぼたもちていうたもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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