77 貧乏の神むかしむかし、ある村にとっても働き者の若衆いだんだっけど。なんぼ稼いでも稼いでも金持ちになんね、おかしいもんだと思って、ほして常にかげになり、日向になりついでいるような者いっから、「おい、お前、いったい何だ」て聞いたら、 「おれは貧乏の神だ」 て、ほの影法師みたいな言うたって。 「はぁ、お前ふっついでいっから、おれは金持ちにならんね、おれから離んねが」 て言うたらば、ほの貧乏の神は、 「いや、お前はええ人だから、お前からは離れらんね、おれはとてもお前から離れる気しね」 ていうたって。 「困ったもんだ、ほんではここにいては分んねから、東京(江戸)さ行ってはぁ、辛抱して暮すからはぁ、お前ここに居ろはぁ」 て言うたら、 「いや、おれも江戸さ追かけて行ぐ」 て言うた。 「お前に追かけらっで、どこさ行っても同じだべし、困ったもんだ。んだげんど江戸は広いどこだて聞いっだし、いろいろな商売もあるて聞いっだもんだから、ここにましたべ(ここよりよいだろう)」 と思って、 「よし、ほんではおれは江戸さ行ぐ」 ていう決心つけて出かけた。三間後ぐらいから、貧乏の神はとことこ追かけて行った。 「やめろ、追かげんな」 て、なんぼうしろふり返ってもわかんね。ところがあるどころさ行ったれば、大きい川あって、ほして水増しでもあったがして、橋みな流っで向う岸さ渡らんね。「はぁ、困ったもんだ」 ほしたれば、貧乏の神は、 「ちょっと待ってでけろ、誰か背負ってあっちゃ行がねげばざぁ行がんねっだ。まずじゃんけんすんべ」 て、二人はじゃんけんしたれば、若者負けて、負けた人は負こだったど。ほして貧乏の神は若者は背負った。約束だから仕方ない。ほして困ったもんだ。 「浅瀬、浅瀬て行ぐど、貧乏の神も落ちね、どうせ思い切って深いどこさ行ってけましょう」 て、深いどこめがけて漕いで行ったれば、貧乏の神は、いきなり離っで、 「いや、駄目だ、駄目だ、おれは川一番にが手だ」 て、ほっから貧乏の神は離っでしまったど。ほうして江戸さ行って、次の日からええごどずくめで、とんとん拍子でもうかった、もうかったて、夜明すことばりあるほどもうかったど。んだから貧乏の神ついでるうちは、なんぼ一生懸命なったってわかんねもんだて、昔の人は言うたもんだ。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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