72 おたたか鳥

 むかしむかし、兄んつぁと舎弟いで、兄んつぁ道楽者で稼がねがった。舎弟の方は一生懸命(かせ)んかった。んだげんど、昔は長子相続ていうて、一番大きい兄は馬鹿でもデクでも家の後とりだった。
 ほして、よっぽど大きい家でないど、分家なてしてけらね。ほんで舎弟ていうな、聟か何かえ行ったり、あるいは東京(江戸)さ出はって行ったりすんなねがったわけだど。
 んで、ある日、兄んつぁ、家にばりいっけんども舎弟の方は山さ行って、山芋掘ってきた。ほして、掘ってきても料理しねもんだから、舎弟の方は料理して、兄んつぁさうまいどこばっかり食せた。ところが兄は、
「おれささえも、こだえうまいどこ食せる、あの野郎、まだまだうまいとこ食ったか」
 と思って、殺して胃袋さいでみたれば、アンコ、上の方の細いどこ、はいつなの、皮なのばり食ってだけって。
「いやぁ、悪れごとした」
 ていうわけで、とうとう鳥になってしまった。ほして八千八度鳴かねど、餌さありつかんねがったど。はいつ気の毒に思ったモズがトカゲなの、あるいは赤蛙青蛙、そういう毛虫なのかえば、木の枝さ引っかけで呉んなだけど。そいつがミイラみたいになって、ちょこちょこ目に付くなだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>蛤姫(下) 目次へ