70 食わず女房

 あるどこに欲のふかい若者いで、ほの若者は、
「いや、おれぁおかた貰うときは、うんと稼いで、御飯なのあんまり食ねな嫁だとええげんど、御飯なのバクバク()れっど…」
 なて、食せんなもいたましいがった。んだからどっからの嫁など来ねくて、相当晩婚になっていだったはぁ。年も取ってだった。
 ところが山の方から、きれいな娘来て、ほして、「こんばんは、こんばんは」て来た。見たればすばらしいきれいな娘だ。
「おれば、あの、何とか嫁にしてもらわんねべか、おれは、あの、御飯なの()んたてええなだ」
「ほう、ほんでは、おら家の家さうってつけだ」
 て、ほの娘ばもらった。ところが次の日から稼ぐは稼ぐは、洗濯は上手、ほら針は上手、掃除は上手、御飯炊きは上手、せっせっせと働く。ほして御飯なの、いつ()ったざぁない。御飯食ね嫁だ。
「へぇ、ええ(かか)貰ったもんだ」
 と思ったれば、友だちぁ、
「お前のかか、ええ勘定でいたか」
「いやぁ、おらえのかかみたい、御飯食ねで稼ぐ」
「ほでないぞ、夜中に、お前、裏板さ上がって見てろ」
 ほして、寝っだふりして、そおっと夜中に裏板さ上がって行って、裏板の節孔から見っだれば、夜中起きて、ほの女、御飯炊き始めた。何すんべと思ったらば、ヤキメシ大きい鉢さ一山にぎった。米だら五升もあるほど。ほしたけぁ、何すっど思ったら、髪ふり乱しったけぁ、髪ふり乱して口、耳まで割っで、ほのヤキメシ一つがらみ、すっぽんすっぽんと口の中さ投げて、たちまち鉢一つのヤキメシ食ってしまった。あららら、たまげたもんだと思って、ほして、
「いやいや、おれぁやっぱり間違っていだんだった。金で稼ぐなだの、何だのて、ほだな人ざぁ世の中にいねなだ、こりゃやっぱり妖怪変化だった。おれぁ心得ちがいしてだ」
 て、ほん時から、ほの男は改心して、ええ若者になったけど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>蛤姫(下) 目次へ