69 天狗の足駄むかしむかし、貧乏暮ししったおかちゃんと若者いだっけど。ところがある時、寄る年波で、おかちゃんが病気した。ほの病気しったのば扱わんなねもんだから、収入ていうな、ぱったり戸絶えてしまった。ほして薬買うこともさんねぐなった。ほんではていうわけで、叔父さんの家さ薬買う銭借りに行った。したれば、 「今回だけ貸してやっけんども、すぐ返せな」 て言わっだ。 「はい」 て言うて買ってきて、はいつで全部薬買ってきて飲ませだげんど、まだ治らぬ。困ったこと始まったと思って、また何とも仕様ないから借り行ったらば、こんどぁ貸して呉ねがったはぁて。帰って来たれば、何だかお坊さんみたいな人と行き会った。したらば、 「お前、金なくて困っているんねが」 「ほだ」 「んだらば、おれがええもの呉 「ええものていうな、どういうものだべ」 て聞いたれば、 「一本歯の足駄だ、この一本歯の足駄はいて転ぶたんび、小判が出る。んだげんども転ぶたんび背低くなる」 「転んで背低くなったてええ、半分になったてええから、おかちゃんの病気だけは治して呉 て言うたって。 「よし、お前、背小っちゃこくなってもええごんだらば、んでは、こいつお前さ呉っから一ぺん転んでみろ」 ほしてほの一本歯の足駄履いて転んだればチャリンて言うけぁ、小判出はってきた。 「ああ、小判」 小判て言えば、昔は大した銭だった。五両で首とぶていう時代だから。一両が出た。はいつで叔父つぁんの借金なして、いっぱい薬買ってきた。ところがその足駄のことを、叔父つぁんが聞きつけた。ほして若者からむりむり、もって行って、自分が転んでみたれば面白いほど出る。んで、銭出ることしか考えねがった。背小っちゃこくなることなど聞かねで、もって行った。んだから、出んな面白くて、転んで転んで、転んでいるうちはぁ、米虫の虚空蔵虫ぐらい小っちゃぐなって、銭は山ほどになっていだっけはぁて。ほしてまた銭なくなったからはぁ、ほの若者は、叔父つぁんさ行って、ほの足駄借っできて銭出さんなねと思ったればはぁ、一人暮しの叔父つぁんがはぁ、虚空蔵虫みたい小っちゃこくなってはぁ、銭だらけ、庭中なっていだっけて。ほしてほの銭みなもって、ほの若者が、おかちゃんさいっぱい薬だ、ほら栄養のあるもの食せたり何かえして、治して、楽に暮したけど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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