126 浦島太郎

 むかしむかし、浦島太郎ていう人いで、その人は雑魚つりして暮していだっけど。ある時浜辺さ行ったれば、子どもら亀の子いじめしった。
「かわいそうに、ほだえいじめるもんでない、どうだおれさ売らねが」
 ていうわけで、子どもから亀の子買って、海さ放してやった。亀の子はありがとさま、ありがとさまて言うような、首、何べんも下げてはぁ、深いどこさ泳いで行った。んで、ある時、浦島太郎が釣りに行ったら、その日に限って一匹も釣んね。
「不思議なこともあるもんだなぁ、こだえ釣んねこともないになぁ」
 と思っていたれば、何だかむっくりと波間から浮いてきたものいる、すばらしい大きい亀だっけ。ほしたらばその亀が二三べん首さげっだけぁ、
「浦島さま、浦島さま、おれの背中さのってけらっしゃい。おれはあなたに助けらっだ亀の子だ。竜宮さ、お連れ申します」
 はいつ聞いて、ほれ、浦島太郎見たこともないもんだから、
「ほんでは、お願いします」ていうわけで、亀の甲さのった。すいすい、すいすい海の底の方さ行って、竜宮さついたら乙姫さま待っていだっけはぁ、ほして、酒よ肴よ、おどりよ歌よて、毎日毎日楽しく暮した。ほして、
「これは春景色だ」
 春の部屋に行ってみっど、いや桜の花咲いでる、鶯は鳴く、梅は咲いてる、雛祭りはしている。
「いやぁ、これはすばらしい」
「ここは夏景色でございます」
 て言うて、ほの夏の部屋見っど、ほこでは山開きあったり、富士山のような山さ登山すっどこあったり、こんどは七夕さま、ほら何だて、夏の行事ぎっしりなった部屋ある。
「ほら冬景色」
 ていうど、こんど冬。餅搗き、お正月いろいろあるわけだ。面白くて面白くて、まず三日ばり暮したはぁ。んだげんどもあんまり御厄介になってでもなんねぇし、面白いことばりで変化なくてはぁ、少し飽きてきた。んで、
「家の方も心配なもんだから、どうか、ぞんぶんに御馳走になったから、帰らせてけらっしゃい」
 て言うたらば、「そうですか」ていうわけで、乙姫さまも、
「おなごりおしうございますけれども」ていうわけで、
「んでは、これ、何もないげんども、あなたさお土産だ。こいつの蓋だけは決して取んねでけらっしゃい。んだどお前は万年の寿命保たれる」
 ていうわけで、玉手箱()でよこしたんだど。玉手箱と釣竿たずさえて、また亀の背中さのって元のどこさ帰ってきた。ほうして帰って来たれば、何だか様子がちがう、ほこらに子どもら遊んでいたけがら聞いてみた。自分の家も何だかないようだ。
「ここらは、何々村でないが」
 て言うたれば、「ほだ」て。
「浦島太郎ていうな知しゃねが」
 て言うたらば、
「ほだな、知しゃね、聞いたこともない」
 子どもでは、わかんねと思って、
「ここで一番年取った人は何ていう人だ」
 て聞いて、ほこの家さ行って聞いて見た。ところが、八十才ばりになるじんつぁいで、ほして言うには、
「昔、今から三百年前に浦島太郎ていう人が、ここの港から出て行ったきり帰って来ねがったどはぁ」
 て、こういう風に言うたて。
「ああ、おれは三日間だと思って楽しく遊んでいたのが、あれがこの娑婆では三百年であったか、ああ、ほうか」
 て言うわけで、玉手箱を蓋あけてみたれば、ほっから白い煙がモヤモヤと立ち上がって、ほして自分もものすごいヨボヨボのおじいさんになったけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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