122 花咲爺

 むかしむかし、正直なじんつぁとばんちゃいだっけど。ほうしてある時、畑さ稼ぎに行くべと思ったれば、白い犬コは捨てらっで、ひんひん、ひんひんて尻尾を股さはさんで泣いっだけど。
「おお、かわいそうだ。どれどれ、家さ行くべ」
 ていうわけで、はいつば()てきて、あつかった。まず、「ほらほら、まず御飯食え、ほらほら魚()え」て、だんだぇ、だんだぇ大きくなって、色もええぐなって、真っ白くなって、その、すばらしくええ犬になった。
 ほうしたれば、ある時、ほの、じんつぁ、ばんちゃさ言うたど。
「おれも、こだえ一生懸命扱わっで大きくしてもらった。捨て犬だったげんど大きくしてもらって、あれだから、恩返しに金掘り()て行ぐ」
 ほして、車さ、
  ほら、カマスもつけろ クェンクェンクェン
  唐鍬もつけろ クェンクェンクェン
 て行った。ほうして、車さみなつけて、行ったれば、
  ここ掘れ ワンワン
  ここ掘れ ワンワン
 ほこ掘ってみたれば、銭と金ぁ、ざくざく、ざくざく出た。ほしてはいつ家さ持って来たれば、隣のじんつぁとばんちゃ、ほいつ見っだけざぁ、
「なぜして、銭と金、お前の家に、ふだ(たくさん)になった」
 正直なもんだから語ったて。
「こうこう、こういうわけで、犬のおかげでよ」て言うたらば、
「ほの犬、おら家さ貸してけろ」
「いや貸さんねっだな」
「いや、貸せ」て言うて、ビリビリもって行った。ほして〈ここ掘れ、ワンワン〉なて()ねなば、〈ここらだか〉なて言うけぁ、掘り始めた。ほしたれば、牛のビタ糞なの、カワラなの、瀬戸かけなのばりガチャガチヤ出てきた。ほしてはぁ、頭さ来て、ほの隣のじんつぁ白ば殺してしまった。ほして、白を返しに来ねがら行ったれば、殺してしまったはぁて。
「あらら、殺してしまったなて、ほんでは仕方ない、なきがらばりも呉てけらっしゃい」
 て、ほして白もらって来て、白ば、ねんごろに葬って埋めて、ほこさ一本の松の木植えた。ところがたちまち太くなった。ほして、
「ああ、こだえ太くなったはぁ、こりゃ臼でもこしゃえるいべなぁ、こりゃ」
 て、切って臼こしゃえで、餅ついてみたれば、ほの餅はむっくりむっくりとふぐっで来て、
「なんだべ、ばんちゃ、ばんちゃ、餅ふぐっで来たぜこりゃ」
 なているうち、はいつの中から銭と金ぁまたざくざくと出てきた。
「あらら…、銭と金…」
 はいつ、隙間から隣のじんつぁとばんちゃ見っだけぁ、
「ほの臼、おら家さ貸せ」
「いや、こんど貸さね」
「だめだ、貸せ」て、持って行ったけぁ、いきなり餅米ふかして、餅搗き始めたけぁ、何と銭と金出るどころか、やっぱりビタ糞などばり、ベッチャラ、ベッチャラなってしまってはぁ、餅も食んねぐなってしまったはぁ。ごしゃえで、いきなり斧でぶち割ってしまって、ほうしてはぁ、カマドさくべて焚いてしまったはぁ。ほして「臼返してけらっしゃい」て言うたれば、
「あっじぇげだもの、ビタ糞なのばり出はっから焚いてしまった」
「ああ、焚いてしまったんでは仕方ない、んでは灰ばりも呉てけらっしゃい」
 て言うて、灰持ってきた。ほうしたれば風で、ほの灰ぁピラピラと飛んで、かかったどこさ、みな咲く、桜であろうか、梅であろうか、
「ありゃりゃ、不思議なこともあるもんだ」
 ちょうど、そのころ、殿さまがお通りになった。ほこさ行って、
「花咲かじじい、花を咲かせてお目にかけます。花咲かじじい、花を咲かせてお目にかけます」
 て、大声でどなって、灰ばらばらまいたれば、ほこらここらみな花だらけになった。桜の花、梅の花、桃の花。ほうしたれば殿さま、馬の上から、「あっぱれであるぞ」。ほしてお褒めになって、どっさり御褒美もらった。
「前途に花咲かせてくれるなて、とても縁起がええ、お前さ褒美をとらす」
 ていうわけで、御褒美いっぱいもらった。
はいつ見っだ、「よし、あの灰なら、おらえにまだあんぞ」ていうわけで、灰でっすら(たが)って、ほの殿さまお帰りになっどき、
「花咲かじじい、花を咲かせてお目にかけます」
 風上さ行って、ほの灰、おっぷら廻したれば、殿さまから家来から、みな目さ入ってしまった。
「無礼者、とりおさえろ」
 ていうわけで、隣の()れじんつぁ、とりおさえらっだけど。んだから悪れごとざぁするもんでないて、昔の人ぁ言うたもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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