120 かちかち山むかしむかし、じんつぁとばんちゃいだけずま。じんつぁ、毎日、春先なもんだから、シクジリの山畑さ行って、豆蒔きしったんだけど。 一粒蒔いたら 千なれ 二粒蒔いたら 二千なれ て蒔いっだ。ところが山から狸出はってきて、 一粒蒔いたら くっされろ 二粒蒔いたら くっされろ て言うた。じんつぁ、ごしゃえで、「この畜生」て言うても、狸、早くて中々つかまらね。次の日もまた、「一粒蒔いたら、千になれ。二粒蒔いたら、二千になれ」て言うたら、狸出はってきて、「一粒蒔いたら、くっされろ。二粒蒔いても、くっされろ」て言うたど。じんつぁ、「うまいことないべかなぁ」て考えっだ。 「ははぁ、あの畜生、杉の木の切り株さ、したえで(腰おろして)、おれさ悪態 て言うわけで、次の日はいつさ、鳥餅ぬって、早く行ってはぁ、ほして知しゃねふりしてまた、「一粒蒔いたら、千になれ。二粒蒔いたら、二千になれ」て言うど、狸ぁまた面白いがって、山からゴソゴソ降っできて、ほの切り株さぺたっと尻 「こん畜生!」て、じんつぁ言うたげんど、逃げらんね。とうとうじんつぁにおさえらっでしまった。手と足と結 「ばんちゃ、ばんちゃ、狸捕 「はぁ、ええがったこどぁ、ほんでは今夜狸汁だなはぁ」 「ほだほだ」、ほして「ほんでは、おれは粉はたいて」ていうわけで、ばんちゃ、粉はたき始まった。トンカラ、トンカラて。じんつぁ、 「ほんでは、ちょっと用達してくっから」て出はって行った。ほしたけぁ、 「ばんちゃ、ばんちゃ、粉はたき大変だべはぁ」て、狸言うたって。 「うん、年取ったから大変だ」 「おれ、はたいて手伝って呉る」 「ほうか」て言うわけで、ばんちゃ、手足ゆるめて呉 「ばんちゃ、ばんちゃ、搗けたか搗けねか、まず、見てみて呉 ほうして、ばんちゃ曲ったどこ、ばんちゃの頭、ゴギラァ、スコンと叩いて、ばんちゃば殺してしまってはぁ、ばんちゃば料理して狸汁のつもりにしてはぁ、ばんちゃば煮てしまったんだどはぁ、狸が。 何も知しゃねで、じんつぁ用達しから帰って来たれば、 「じんつぁ、じんつぁ、粉はたいだしはぁ、狸汁出来っだはぁ」 て、狸はばんちゃに化けではぁ言うてだんだどはぁ。じんつぁ、ほだごど知しゃねで、「どれ」て食ってみだれば、しなこくてしなこくてなんね。 「ばんちゃ、ばんちゃ、今日の狸汁は、むやみにしなこいな」 しなこいも道理 流しの下 見あがれ て言うた。見てみたれば、ばんちゃ殺さっでいだっけど。 「あらら、あの狸の畜生だほに」 なんとも仕様ないて、じんつぁ、アンアンて泣いっだど。くやしくなってはぁ。 ほしたれば、ピョコンピョコンと山から兎がきて、 「じんつぁ、じんつぁ、なして泣いっだ」 「こうこう、こういうわけで、ばんちゃ殺さっで狸に煮らっでしまったはぁ」 「よし、おえねえ野郎だ、んだらば、おれ、狸の仇とって呉る」 こういうわけで、狸んどこさ兎遊びに行った。 「おお、狸くん、狸くん、今日はむやみ天気ええから、杉葉拾い行 「ええがんべなぁ」ていうわけで、二人は杉葉拾い、山さ行った。ほしてええ頃加減拾って、二人背負った。 「お前早ぐ行げ」 「いやいや、おれは足早いなだから、遅くでも、どっからでも追っかつかれっから、あなた前立て」 ていうわけで、狸ば前立てて、うしろがら火打石と火打ち金で火付けた。カチッ、カチッとしたれば、 「おう、なんだか、不気味な音するな、カチッカチッていうな、何だやい」 て聞いた。 「いや、ここは先 「はぁ、カチカチ山か」 ほだえしているうち、ぼおっと燃え始まった。 「何だか、ぼうぼうて言うね」 「ここは、ボウボウ山だ」 ほだえしているうち、熱くなった。 「あちち…」 背中、大した火傷 「火傷の膏薬いらねが、火傷の膏薬いらねが」て行った。 「ああ、火傷の膏薬呉ろ」 ところが、南蛮ミソすって行った。「どこ火傷した」て言うたれば、 「いや、背中だ」 「ほんでは、つけて上げっか」 「つけてもらうと、ありがたい」 て言うわけで、南蛮味噌、火傷しったどこさ、りゅっと塗ったれば、「いたたた…」て、何とも仕様なかった。 「ほんでは、川さ行って、水でも塗らんなねべ、舟遊びでもすんべ」 て言うわけで、ほして、川さ連 「あららら…、何だか沈むようだ」 なてるうち、カイ棒ではぁ、狸ばぐっぐっと押しつけてはぁ、ほして兎ぁ殺してしまったはぁ。川さ沈めてしまった。ほしてゆうゆうと仇とって、 「じんつぁ、じんつぁ、こういうわけで仇とってきた」 「ああ、ええがった、ええがった」 て言うたけど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
>>蛤姫(下) 目次へ |