119 舐めくらべ

 むかしむかし、二十五貫目の砂糖樽一時間で舐めるていう人いだった。
「とんでもない、ほだな舐められるもんでない」
 ほいつも論判の末、賭けになった。
「んだらば、おれの言う通りにして呉っか」
「いや、なぜでもする。ほだな舐めっこんだらば…」
 て言うた。「よし」て言うわけで、カナテコとドンコイ、ドンコイと、黒砂糖一本掘って、ほして「ほいつば五寸直径の団子にまるべてけろ」て。ほしてほいつば二十五ばりに丸めた。
「出来たか」「出来た。ほんでは時間もあっけんど、今から舐めんぞ」
 て言うけぁ、くるりくるりと舐めて、ちょぇっと置き、ちょぇっちょぇっと舐めて置きして、つるっと舐めてしまった。したけぁ、
「おれは食うて言うたんでない、舐めるて言うたんだ」
 て言うて、はいつも賭けに負けだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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