116 山刀切りと牛引ワラジむかしむかし、この〈うすぴきワラジ〉ていうななくて、ずっと前は「素ワラジ」て言うて、褄ゴかかっていねワラジだった。ところが山さ行ぐど、蝮蛇に喰っつがったり、あるいは木さ引掛けて爪はがしたり、石さぶっつけたり、重たいもの背負って歩ったりなんかいすっど、大変不都合だった。農耕さ牛使うようになってきた。牛ば引張ったり使ったりすんなねようになってきた。ところが牛は元気ええくて、はね廻ったり何かえすっど、よく、この、足で踏んづけられて怪我したもんだ。何とかええ工夫ないかていうわけで、 「ほんでは、ワラジさ褄ゴつけたらどうだべ」 ていうことを考えて、褄ゴつけた。ところが褄ゴつけてから怪我が半分もなくなった。んだからこの辺では、牛率くとき履くワラジだから〈うすぴきワラジ〉て言うた。どんぴんからりん、すっからりん。 ほれから「山 ある人、山さ弁当持 ほの人ぁ考えた。ママハケゴ(御飯を入れるハケゴ)ば真中からぶっつり切って、ほして、御飯 「君、ええもの編んでだもんだな。何ていうもんだ」 ほの人は、ハケゴば切ったなて言わねで、「いや、これは、山刀切りていうもんだ」。山刀で真中からぶっつり切ってかぶった。ちょうど、ハケゴば半分にしたような奴、この辺では、〈山刀伐り〉は〈ニゾ〉て言う。なしていうど、山刀でぶっつり切ってかぶった人が仁蔵て名付った人だったて。んだから、今でも〈ニゾ〉て言うてだ。戦前までは山仕事や山中くぐって雨降りん時、茸とりしたり、草刈りなんかぇすっどきには、とにかく〈ニゾ〉でなくてはなんねがった。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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