114 トツキ亀むかしむかし、ある村に亀蔵ていう、とってもトツキな人いだっけど。んだからソコツなもんだから、みな「トツキ亀、トツキ亀」ていうがった。ほしてほのトツキ亀は底抜けに人がええ。町ちゃなの買物頼まっで行って、 「ええが、正月の買物、おっつぁん、椎茸買ってきてけろな」 なて言うど、どっから買ってきたんだか、〈フェダゲ〉なの買ってくる。ほしてまた、 「ザッパ買ってきてけろな」 なて言うど、餓鬼べらのラッパなど買ってくる。ほだなええ方で、買物に行って何も買わねでもどってくることなのばりあったど。 んだげんど、せっせと働くもんだから、銭貯まる。銭貯っど一文銭は紐さ通して、五十文、百文て、ほしてほの銭の面 ほして、こっからは遠 して、その亀蔵はふと考えた。 「おれは常に貧乏もの、貧乏ものて言 ていうわけで、町の呉服屋から小巾三尺の白の本絹の布地買ってきて、早速奥さんに紐つけてもらって越中褌用意した。ほして弁当は弁当箱さ入れるようにして、まず暗いうち出発した。ほして弁当背負って、荷物ば振り分けにして、うしろ前さかついで、銭は百文銭ば一文ずつ紐さ通して、ほして財布さ入っで、たったったったと行った。ほしてあるどこまで行ったら夜明けた。んだげんど、このまんま行ったんでは、絹の褌しったって誰もわかんねからていうわけで、尻まくって絹の褌出して行った。 ほうして、ある城下町まで行った。鼻唄機嫌で歩いて行ったれば、通るすがりの人は、股グラんどこ見て、みなにこにこ、にこにこて笑って行ぐ。口なのおさえて笑って行ぐ。 「おかしいこともあるもんだ、ははぁ、様見あがれ、おれが絹の褌してっから、身分に相応すねど思って笑って行くんだな」 と思って行った。ほだえしてるうち、先っぽぇの方、つうとかゆいような気する。ほして城下町んどこまで行って、小便たれんべと思って魂消た。ほしたれば先の方さ、ブド赤くなるほど、ちょうど昔、蚕のお種紙ていうのあった。ほいつのお種紙みたいになっていだっけはぁ。みなブド食って。ほして絹の褌しった勘定しったな、家さ忘せで来て、絹の褌しねで、野放しでいったんだけど。 「いや、いや、これはしもうた」 と思ったげんど、それは後のまつりだった。 「ははぁ、何だ、野郎べら笑ったな、おれのそれ見て笑ったんだな、こりゃ。あんまり風通しええと思った。こりゃ失敗した。んだげんど仕方ない、気にしていらんねから」 て、また、たったったったっと行った。 ほしていよいよ、古峯さまさお詣りした。お詣りすっどき、まず百文から十文はずして、十文上げてお詣りすっど思った。ところが、手滑らせて、十文の方こっちゃ置いて、百文の方、思い切って投げてしまった。 「ありゃりゃ」 と思ったときには、トツキなもんだから、まずはぁ何とも仕様なかったど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
>>蛤姫(下) 目次へ |