111 田舎言葉むかし、楢下の庄屋から生居村の庄屋さ使い行った。ところが楢下ざぁ、宿場で、大変、当時寺子屋なてあって、勉強してるから、こりゃ、粗相あってなんないと思って、生居の庄屋が楢下の、使い行ったのば、招じ入れた。「まことに御苦労さまでございました。炉辺に近着召され、炉辺に近着召され」 て言うた。ところが、楢下でもそんなに頭のええ、学問した人ばりいたわけでなくて、はいつは無学文盲だった。〈炉辺に近着召され〉て言 「えへん、ちゃちゃもちゃく、えへん、ちゃちゃもちゃく」 て言うた。ところが向うの庄屋どの、〈ちゃちゃもちゃく〉わからね。 「いやいや、あの楢下さま、まず、わたしの言うたな、〈寒いから、囲炉裏端さ近寄ってあだってけらっしゃい〉ていうこと言うたんだげんど、あなたの〈えへん、ちゃちゃもちゃく〉ていうな、どういう意味だべっす」 て聞いた。 「いや、これはな、歩いて来たから温かくて当んたてもええて、言うたんだった」 て言うたけど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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